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□リスタート
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授業終了の鐘が鳴るとすぐ、
私は教室を飛び出し屋上へと続く階段を駆け上がった。

呼吸を整えながら勢いよく扉を開けると、
厳しい夏の日差しを感じ、首筋にじわりと汗が滲む。


死角になっている壁際に倒れ込むように座り顔を伏せれば、
生暖かい風が髪を揺らした。






好きな人に別れを告げることが、こんなにも辛いなんて。


どうしようもなく好きだった。

手に入らないと思っていた遠い存在。


そんな彼と別れたのは、
今日最後の授業がはじまる少し前のことだった。



別れた理由は簡単で、
彼には好きな人がいた。

しかも彼女は私の友人で、
優しい彼氏もいる。



彼の、彼女を見つめる視線はとても優しくて、


ああ、この人が求めてるのはあの笑顔なんだ


そう気付いてしまった瞬間、
私の中の何かが壊れ、私からその場で別れを告げた。


理由も話さず別れを告げても彼は、
「今までありがとう」のたった一言。



引き留められるとは思っていなかったけど、
私と彼の間にこんなにも温度差があったことに、その時は涙もでなかった。


だけど。




『バカみたい…』




時間が経つと共に徐々に溢れる絶望感に涙は止まってくれない。










「名前先輩?泣いてるんすか?」




何で、どうしてここにいるんだろう。

彼のその問いかけに、私は答えなかった。

でもその気配はだんだんと近付いてくる。




「部活はじまりますけど」




部活なんてどうでもいい。
放っておいてほしい。

そんな願いも空しく、
その気配はゆっくりと私のすぐ傍までやってきて、やがて隣に腰を下ろしたのが分かった。






『財前…』


「ここ、あっつい」


『…部活行きなよ』


「名前先輩に言われたくないっすわ」




相変わらずの平淡な声。

しばらく顔を伏せていたけど、
隣で缶ジュースを開ける音がして財前は放っておいてくれないんだと観念することにした。


心を落ち着かせるよう1回だけ深く息を吸い、顔をあげると、






「ひどい顔」


『うるさい。私別れたの』




吐き捨てるように言うと、財前は一瞬だけ驚いた顔をして、すぐにいつもの無表情に戻った。







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