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□なけない
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今にも触れてしまいそうな距離。

名前はそんなことにも気付かず、校庭にある人影を見つめていた。




『あの人、どう思う?』




名前視線の先を追えば、

サッカー部のレギュラー選手の姿。




『どう?』




不安まじりのどこか嬉しそうな名前の表情だけで、
アイツへの気持ちが俺の中に流れ込んでくる。


きっと俺が踏み込むことなんてできないくらい、
遠い存在になっているんだと解ってしまった。






「付き合ってんの?」


『………うん』


「そっか。まぁ、お似合いなんじゃね?アイツ、ほんといい奴だし…」




無理矢理作った笑顔が
バレませんように。

ただそれだけ。


久々に見た名前の笑顔が嬉しいのに、

目の奥が痛い。






『ブン太、ありがとね』


「お前にはもったいないくらいだっての!」


『まあまあ、妬かないの』




妬いてるよ、アイツに。

好きだったんだ。
アイツなんかよりずっと前から。


何でも言い合えてたはずなのに、いつから俺に話さないことができた?

いつアイツを好きになった?






『ブン太ならすぐ彼女できるよ!』




バシバシと俺の背中を叩く名前は、
きっと俺の気持ちに気付いていなかっただろう。


もっと早くに気持ちを伝えていたら、

俺達の未来は変わっていた?


疑問ばかり浮かぶ頭の中で響く、名前の笑い声。

こんな結末、
俺は望んでいなかった。






『私達もまだ始まったばかりだけどさ、好きな人と一緒にいれるのって本当に幸せだよ』


「ノロケとかマジいらねぇから」


『ブン太に好きな人ができたら絶対に応援するからね』








最後に見た名前の顔は、




『だから頑張りなよ!』




いちばん大好きな笑顔だったけど、



いちばん見たくなかった、

他の男に染められた色。






「調子のんな、バーカ」






この強がりが
どうか続きますように。


名前の幸せを、
心から願えますように。




そんな気持ちを抱えながら、

静かに自分の気持ちに蓋をした。



いつまでも開かぬよう


深く深く。








おわり

20130812
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