main

□ただ、君のために
2ページ/2ページ



「なんか最初の頃を思い出すなぁ。
精ちゃんが休み時間に勉強教えてくれて凄い助かったんだよ。」

一年前のことでもハッキリ覚えてる。



「…いっそ記憶喪失になればいいのに」

つい、口から出た言葉。

「精ちゃんが?」

すぐ食いついてきた彼女に


「名前が。」

意地悪く笑ってみせる。



お前の記憶から俺がいなくなれば
こんな未来にはならないだろう?

俺はお前の記憶だけあれば、それでいいから


こんな゛イマ゛を過ごさないでほしい。



「そしたら、また1から恋するのかぁ。
ドキドキするなぁ」

なのに自分の想いとは裏腹な返答で
あまりに真っ直ぐ微笑みを浮かべるから


「俺の記憶がそのままなら、名前には絶対出会わない」


またも、意地の悪い答え。


「なら、探すよ。で、また好きになる」

「俺はならないかもしれないよ?」


お前を泣かせるくらいなら
己の心さえ隠して
お前が笑って過ごせるように
俺はどんな痛みにだって耐えてみせる。


だから、どうか
俺のことは忘れてほしいと願うのに


「私は努力する、一緒にいられるように。
だって、精ちゃんと過ごせないほうが何倍も辛いもん!」


あぁ

ダメだ。

このやり取りは自分の首を絞めるだけ。

より一層名前のことが好きだと
離れたくないと思ってしまうだけだと気づく。


「私の目には、精ちゃんしか映ってないんだから、諦めてください」


ふふっと笑う彼女を気づいたら抱き締めてた。

「精ちゃん?」

「ごめん、名前…大好きだよ」

何度も何度も呟いた。

好きだと言って、離さないように抱きしめて、この温もりを失いたくないと
失ってはいけないんだと、心に言い聞かせる。






「私も、大好き」


そう、あんなに酷いことを言った、こんな俺を受け止めてくれる彼女を

俺から
これ以上大切なものを奪わないで









「精ちゃん…名残惜しいけど、そろそろ休んで」

「そしたら名前は何をしてるの?」

「雑誌読むから平気!
最近好きな俳優さんの特集あったから熟読してる!」


へぇ…

好きな俳優…


「わ!?
何も見えないんですけど!
手!手!目から外して〜」


「俺以外見えないって言ったのはどの口?」
「それとこれとは…」


「ダメだよ。
これからは、余所見なんてさせない」


そう。
もう、遠慮はしない。

傷つけないように遠ざけるのではなく
幸せにするために共にいることにしたのだから


「諦めてくれるだろう?」

微笑みを向ければ

「……降参です。」

そう言って両手をあげる名前。



その様が可愛くてまた笑ってしまう。




二人が出会った事実は変えられない。

共に過ごした記憶も消せはしない。


なら、

これから先、彼女に辛い思いをさせてしまったら
その何倍も幸せにしよう。


何倍も笑顔を見せてもらえるように

俺はなんだってしてみせる。


今まで悲しませてしまった分

俺の人生を賭けて


幸せにするよ。












fin*
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ