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□未来と
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『これでいいかな?』
「ああ、行け」
何でそういう言い方するかな。
跡部君から生徒手帳を受けとると、
私は教室への道を歩き出した。
どうせ遅刻なんだし、
1限目に間に合えばいいかなぁって。
途中で膝まで隠れそうなくらい長くなったスカートをまた3回折り、
ポケットにいれたままの生徒手帳を思い出す。
パラパラとそれをめくり、
生徒会長直々に書いていただいたお小言に目を通すと、
そこにあった文字に思わず顔がにやけてしまった。
そこに書いてあったのはお小言なんかじゃない。
走り書きのような電話番号とメールアドレス。
そして、
いつでも連絡してこいの一言。
意外とシンプルなこのアドレスが、あの跡部君のものだなんて信じられない。
ごめんなさいと心の中で呟きながら、
そのページを綺麗に1枚だけ破き、なくさないよう胸ポケットへとそっとしまった。
*
『んー…』
「起きたか」
優しい声。
フカフカなベッド。
あれは夢だったんだと、
ぼやけた意識の中で感じとる。
現実に戻った私は、
あの頃より大人っぽくなった彼に笑顔を向けた。
『おはよう』
「遅刻するぞ」
そんなこと言って、
髪を撫でるなんてずるい。
私が景吾に撫でられるの弱いって分かってるくせに。
『離れたくないなぁ』
「やけに素直じゃねぇか」
『あと1分だけー』
枕に顔を押し付け、
また目を閉じる。
1分、1分だけ。
ん?
『うわっ!あれから何分経った?』
「10分」
『遅刻する!』
慌ててベッドから飛び出し、
顔を洗って、軽く化粧をして、クローゼットから洋服を漁る。
景吾の視界に隠れて着替えていると、
何気なく選んだスカートだった為、丈が合っていないことに気が付いた。
まぁ見えてないからいいか。
そう思い、スカートを腰で2度程折りシャツの丈でそれを隠す。
着替えを済ませ景吾の元へ戻ると、
彼の眉間に深いシワができた。
「スカート短くねぇか?」
『そんなことないよ』
「短けぇよ」
『いや、ちょっとー』
少し短めな私のシャツを捲り、
景吾の手により本来の長さへ戻される私のスカート。
スカートの中にシャツが押し込められ、
一歩下がって上から下までじっくり見ると、
景吾は満足そうに頷いた。
「完璧だな」
『…ふふ』
「何だよ」
『中学の頃と変わらないなぁって』
「あの頃みたいに俺に隠れて直すなよ?」
『知ってたの?』
「当たり前だ。何回言っても名前は直さねぇし。
じゃなきゃ、俺様が毎日あんなところで突っ立ってるわけねぇだろ」
『…うん』
恥ずかしくなって俯いたところで腕時計に目が止まり、悲鳴をあげそうになった。
『本当に遅刻する!いってきます!』
バッグを持ち、
部屋を出ようとすると景吾から渡された会社のカードキー。
「忘れてんぞ」
『ありがと!景吾も遅刻しちゃだめだよ』
「当たり前だ」
軽くキスが落とされ、
私は家から職場への道を急いだ。
ふと目に映るカードキーには、
跡部名前の文字。
それはあの頃から変わらぬ気持ちを持ち続け、
私達がようやく
家族になれた証。
苦手だった景吾と
何度もぶつかり
お互いを理解し合って
やっと掴みとった
しあわせの証。
おわり
20130828