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□だれより近くで
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涙を拭おうと手を顔に近づければ
前から歩いてきたであろう千石の声。

「うっわ……。目真っ赤じゃん。
どうしたの?」

心配してさらに近づいてくれるけど
千石が仁の好きな人を知っているなら
比べられてしまいそうで

「何でもないの、大丈夫!」

目をゴシゴシ擦れば


「名前ちゃん…。」


千石の腕が伸びてきて
今までよりずっと近い距離感で
なんだか抱き締められてしまいそうで
思わず後退りしようとすれば



「触ってんじゃねぇ!!
コイツは俺のだって言っただろうが!」


私の体は背後から伸びてきた右腕に捕まり、引き寄せられる。


この腕が誰のものなのか
誰の声で誰の温もりなのか

確認しなくたってわかるよ。
見なくたって知ってる。




だって、大好きな人だもん。



「やだなー。
亜久津が泣かせるから慰めようとしてあげただけだよ」

「うるせぇ…。
とっとと消えろ」

「はいはい。
痴話喧嘩はほどほどにね」



私たちの横をすり抜け千石は消えていき、広がるのは沈黙とやけに響く心臓の音。



「……油断も隙もあったもんじゃねぇ」


さらにぎゅっと抱き寄せられる。



ねぇ、どうして抱き締めてくれてるの?
どうして追いかけてきてくれたの?

どうして、さっきの言葉を言ったの?



聞きたいことはたくさんあるのに
顔が見えないから怖くて


「……誤解されちゃうよ…………好きな子に」

涙をこらえながらそんなことを言ってしまったのに



「……テメェだからいいんだよ。」

そんなこと言うから涙溢れて止まらない


「泣くな。
…ったく、心配ばっかかけやがって」


向かい合わされ、今度は仁の胸に顔が埋まる。

暖かくて、仁の匂いがして
背中に手を回しても怒られなくて

涙が止まるわけなんてなかった。




特別になりたかったの。

幼なじみでも親友でもなく
貴方の特別に。




「え!?
私そんなことしてた??
むしろ理由それ?」

「スカート短いくせしてベッドに横になるわ 、動き回ってただろうが!。
何度押し倒してやろうか考えたと思ってる」


「…なんかサラッとすごいこと言ったね?」

「もう遠慮する仲でもねぇだろうが。
だが、余計な種撒いた千石は今度ぶっ倒す。」


「きっとくっつけようとしてくれたんだよ!」

「好きな女って聞いて不安になってた癖して。
つーか、他の野郎なんて庇うな。
俺だけ見てねぇと許さねぇぞ」


「仁…。
あーもう!大好き!」


「うぜぇ!
叫ぶな!」

「だって大好きなんだもん!」

「…本当にうるせぇ口だな。」





そう言うと唇を一瞬塞ぎ
ビックリしすぎて何も言えない私の手を
しっかり繋いで歩いてくれる貴方。



きっと、これから先も
ずっと貴方にドキドキして
今みたいに騒いで
何回も怒られるんだろうけど
それでも大好きです。



「ヤバい…今の恋人っぽい」


「バーカ。
てめぇはもう、俺の女だろうが。
だいたいこんなのはまだじょ」

「もう一回言って!今のもう一回!」






この後
さっそく痴話喧嘩をしたのは言うまでもありません。








fin*
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