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□恋愛フラグ
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本当は心のどこかで解ってた。


それでも

二人で過ごした3ヶ月間が楽しかったから
見ないようにしてたんだと思う。


でもそれも、今日で終わり。




「名前の彼氏、他のクラスの女子と屋上に行ったよ」




覚悟なんてとっくに出来てる。

深呼吸をして、
勢いよく屋上の扉を開くと。






『やっぱり…』




そこにはたった今、
彼氏から元カレになった人と、
知らない女子生徒。

ベタベタしながら彼女の作ってきたであろうお弁当なんか食べちゃって

これでもう確信した。




『ねえ!』




怒りを含んだ私の声に
ふたりが同時に振り向いて


「名前…」


ばつの悪そうな元カレと、
睨み付けてくる勇敢な新カノ。

怒りたいのはこっちだっての。




『やっぱりこういうことだったんだね』


「………」


『最低。二度と私の前にあらわれないで』


「…何だよ、それ」




私の言葉が気に障ったんだろう。

俯いていた彼は怒りを露に立ち上がった。




「浮気してんのはお前も一緒だろ!」


『私が?何言ってんの?』


「お前だってソイツと二人になりたいからここに来たんだろ!」


『は?』




言ってる意味が分からない。

でも、彼の指先は私ではなく、
私の後ろに向かっている気がする。


嫌な予感がして、

恐る恐る振り向くと




「ソイツが新しい彼氏だろ?」


ちょうど元カレの声と重なって




「だったら何だよ」


日吉が答えた。




いや、違うだろ。

心の中で突っ込みをいれてみたものの、
堂々と嘘吹くその態度は
さすが次期テニス部部長と言うべきか。

ただ、腕まで組んで睨み付けるその様は
今にも元カレに殴りかかりそうで。




『日吉、暴力はダメだよ!あの人ああ見えて漫研だから!向こうに勝ち目なんてないよ!』


「…ハンッ」




えぇ?今鼻で笑った?

私の焦りなんか気にせずに
日吉は元カレを見据える。




「おい、お前」




お前とはもちろん元カレのこと。

日吉の低い一言に
私も、元カレも、勇敢な新カノも息を飲んだ。




「二度と俺の女に近付くな」




ちょ、ちょっと。

彼らに見えないよう
俺の女とは私のことかと確認のジェスチャーを送ると、
日吉はコクリと頷く。


おいおいおい。

まるで私が殴られたような大きな衝撃に目眩がして
ふらついた私の肩を日吉が掴んで支えてくれる。


その間にも
睨み合う日吉と元カレ。


終いには


『もうこの話はやめよ!終わり!』


自分で仕掛けておいて、
自分で収拾させるというマヌケな落ち。








「名前さん、行きますよ」


『ちょ、引っ張らないで』




グイグイと腕を引かれて、
連れてこられたのはテニス部の部室。


着けばすぐに手は離されて、
乱暴に椅子に腰掛けた日吉は
テーブルを挟んだ自分の前の席に座れと目だけで訴えてくる。

素直に従えば、
テーブルに大きめなビニール袋が置かれて
無造作に取り出したパンを2つ、
そしてカフェオレの紙パックを私の前に差し出してきた。




『だ、だから、何なの?』


「昼飯ですが」


『あ』




そういえば今日は購買に行く前に屋上へ行ってしまったから昼ご飯を買っていない。

一仕事終えてスッキリしてか、
お腹も空いてきた。




『じゃあ遠慮なく。いただきます』


「はい」


『え、私焼きそばパン2個なの?甘いパンがよかった』




ジロリと睨まれて、
今度は袋からクリームパンを渡され、つい頬が緩む。

それが気にくわないのか、
日吉の眉間には深いシワができた。




「ワガママも大概にしてください」


『昼に焼きそばパン2つ食べる女子なんていないよ。そんなにたくさん買ったんだから替えてくれてもいいじゃん』


「名前さんが何を好きだか知らないんでとりあえず一通り買ってみただけです」


『え?そうなの?』


「あ」




気まずそうに目を反らして、
黙々とパンを頬張る日吉が可愛い。




「…何笑ってるんですか」


『何でもない』




そっか。私の為か。

可愛い後輩を撫でてあげたかったけど、
きっと怒りをかうだけだろう。




『ありがとね』


「…いえ」




こんな感じで和やかに始まった私達の昼食は




「………」


『………』




未だかつてないくらい弾まない。






『そ、そういえばさ、何で来たの?』


「…購買で名前さんの友人に会って無理矢理向かわされました」


『それは、ごめん』


「………」




謝ったのに睨まれた。

本人はこんな調子だが、
きっと昼休みが終わればご機嫌な友人から
日吉君と話しちゃった、と報告がくるだろう。

日吉も嫌なら断ればいいのに。






「…名前さんは」


『ん?』


「泣いたりしないんですね。もっと落ち込むと思ってました」


『まあ、分かってたし?』




一緒に帰ることも、
頻繁な連絡も今はもうなかったし。

曖昧な関係を続けるより
今こうして白黒つけられてよかったと思う。




「案外強いんですね」


『まあね!』


「可愛くはねえが」


『それ言う?』




小さく笑えば、
日吉も笑みを浮かべていて。


そんな日吉をぼんやりと見ていたら
不意に頭の中で何かが弾けた。

言葉に言い表せないソレは
思考を一瞬で真っ白にさせる。






「名前さん?」


『え?』


「どうしたんですか?急に動かなくなりましたけど」


『な、何でもない!』




自分でもよく分からない。

けど、何かが身体の奥底から沸き上がる感じ。




『ねえ、日吉』


「はい」




ああ、そうかこれは。




『私達、付き合ってみない?』


「…は?」




今度は日吉が固まり、

数秒してその意味が理解できると
赤くなったまま私を睨んでくる。




「な、何寝ぼけたこと言ってるんですか」


『私は本気だよ。嫌ならいいけど』


「…嫌だとは言ってません」




あー、今度は俯いてしまった。

どうしたらいいのか分からず、
とりあえずパンをかじる。

あ、これ、ちょっと高い方のクリームパンだ。




「何なんだよ。別れたばかりだから、慰めてこれから距離を縮めようと思ってたのに」


『………』


「普通別れてすぐに付き合おうなんて言うか?からかわれてるのか?…名前ならありえる」


『日吉、駄々漏れだよ。ていうか本当は呼び捨てで呼んでたんだね』


「あ」


『ふふ』




もう全部が可愛くて仕方ない。

そうか。これが所謂アレか。




『で、どうする?確かに別れたばかりだけどからかってはないよ』




正直、私はまだ日吉を恋愛というカテゴリで好きではないけれど

きっとすぐに好きになるだろう。




「…付き合ってあげてもいいですよ」


『ありがと。よろしく』


「少しは可愛く照れてください」


『むりむり』






これが所謂、恋愛フラグ。


私の全てが、

この人だと教えてくれたから。


私は、私と彼を信じてみる。








おわり

20140418

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