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□my darling
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仁王の隣を歩いていると、
いつも仁王に夢中でまわりの声なんて聞こえていなかった。

だからその日のことは偶然。

廊下の窓から見えた夕焼けが眩しくて
仁王から目を反らした一瞬に、
私が今まで忘れていた声が耳に入ってきた。




「仁王君ってかっこいい!告白しちゃおうかな!」




反射的に右側を歩く仁王を見上げると、
やっぱりその声が聞こえていたみたいで困ったような笑みを浮かべている。

そうだ、最近はずっと平和で
仁王が実はとてもモテることをすっかり忘れていたんだ。




『ねぇ。仁王って、モテるんだよね?』


「………いいや?」


『今、間があった!もしかして私の知らないところで告白とかされてるの?』


「あー…まあ、たまにないこともないが」


『やっぱり…』




自分の能天気さが恨めしい。
何でこんな大事なことを忘れていたんだろう!

あの子も、あそこにいる子達も
もしかして仁王に気があるのかもしれない。

考えてみればまわりは敵だらけ。

お願い、神様。
仁王のことを好きな子達の半分を
他のレギュラーメンバーを好きになるようお導きください。
半分でいいんです!




「何を祈っとるんじゃ?」


『悪気はないの。見逃して』


「そうか。じゃあ俺も」




目を閉じて何かを祈ってる仁王。

数秒して、ゆっくりと目を開くと私の頭をポンッと軽く撫でた。




『何をお願いしたの?』


「俺は彼女一筋なんで彼女が余計な心配せんよう頼んどいた」


『仁王…』




今ここで叫びだしたいくらい仁王が好き。
もう大好きすぎる。

神様、ごめんなさい。
さっきのお願いはなかったことにしてください。
私は神様より彼氏様を信じます。






「そういえばさっきから気になってたんじゃが」


『どうしたの?』


「それは?」




仁王の指先は私の鞄を指していて、
見ると手紙のようなものが入っている。

いつからここに入ってたのかは分からないけど
それは見覚えのある便箋。
そしてその裏に書いてある名前。




『まただ…』


「どうした?」


『2年の時に同じクラスだった人が何度も手紙をくれるの』




所謂ラブレター。
もちろん私には彼氏がいるから手紙でお断りの返事を返したり、
直接本人にもそう言ってきたけれど
未だにくる手紙に少し疲れてきている。




『もう何度も断ったんだけどね』


「名前ちゃんも俺に秘密にしとることがあったんじゃな」


『心配させるかと思って』


「確かに」




ヒョイと私の手から手紙を奪って、
裏面に書いてある名前を確認する。

2年の時から私達は同じクラスだから
きっと仁王も彼のことを知っているはず。

みるみる顔が歪む仁王に内心ヒヤヒヤしながらも、
私は仁王が話し出すのを待った。




「コイツ、大分前から名前のこと好いとった奴じゃ」


『嘘?!』


「ホント」




返された手紙を鞄にしまって、
歩き出した仁王の隣に並ぶ。

顔を覗き込めば仁王にしては珍しい仏頂面。




『…黙ってたこと怒ってるの?』


「いや。ソイツ、俺より先にお前さんのことを好いとったから、ちと悔しくなっただけじゃ」


『仁王っ』




人の目なんか気にできない。

好きって気持ちが我慢できなくて、
そっぽ向いていた仁王の腕に思いきり腕を絡めた。




「ん?こんなところで大胆な奴じゃな…って、なにニヤけとる」


『嬉しくて!』




もう顔が緩みっぱなし。
腕を離さない私は引きずられるように校門までの道を歩いてく。

仁王はこれから部活に出なくちゃいけないからいつもならそこでバイバイ。

でも今日は帰りたくない。




『部活見ていこうかな!』


「だめじゃ。真っ直ぐ帰りんしゃい」


『えー何で?』


「アイツが名前のところに来ないか気になって集中できんじゃろ」


『大袈裟だなぁ』


「…名前」




低い声で名前を呼ばれて
一瞬驚いた。

だけど驚いたのはそれだけじゃなく、
頭で理解するより前に
いつものようにオデコに軽く仁王の唇が触れて言葉も出ない。


いつもとは違う。

いつもなら誰かがいるところでこんなことはしない。




『ど、どどどうしたの?』


校門の近くにはたくさんの下校中の生徒達がいて、
悲鳴やら視線やらで目がまわる。




「名前に誰も近付かないよう邪魔しとるんじゃ」


『いや、だからって』





「なぁ、お前さん」





ゆっくりと肩を抱かれて

仁王の腕におさまって




「“俺の”彼女に何か?」




仁王の言葉に顔をあげた瞬間

私は仁王の本当の意図を知ることになる。






おわり。

20140512

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