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□DISTANCE
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「なぁ、名前」


『きゃっ!ブン太!?ごめん、急ぐから!』


「あ、おい!」



何だよ名前の奴。
百円借りようと思っただけなのに。

名前は慌てて走り去ってしまい、
俺だけがその場に取り残されてしまった。


幼馴染みのくせに、
最近付き合いが悪すぎんだろ。

仕方なく俺は近くを歩いていた柳生に金を借りて
その場はおさめたが。






「なぁ、仁王。俺の女がよそよそしいんですけど」


「お前さん、彼女おらんじゃろ?」


「まあな!つうか名前だよ。アイツ、最近よそよそしいんだよ」


「ああ、幼馴染みか?」


「おう!」




そうか、と少しだけ笑みを浮かべる仁王は
男の俺から見てもカッコイイし、
モテると思う。

仁王の浮いた話なんて聞いたことはないが、
こういう話は仁王に相談するに限ると思っている。

俺は。




「丸井が誰かを気にするなんて珍しいな」


「まあ、名前は特別だし?」


「幼馴染みだからか?」


「もちろん!それ以外何かあるかよ?」


「恋愛?」


「はあ?」




そもそも名前をそういう目で見たことなんてない。

一緒に遊んで、イタズラして、
ずっと一緒にいた幼馴染みだ。

そんなアイツが彼女だったら?

それって…




「なあ!仁王!………あれ?」


さっきまでいたはずの仁王がいない。

変わりに前から歩いてくる幼馴染みの姿。




「絶対逃がさねえ」




名前に気付かれないよう

走って
走って。




「捕まえた!」


『ブン太!』




おろおろする名前の頭をクシャクシャと撫でてやる。




「俺を避けた罰だっての」


『避けてなんかないよ。違うのっ』


「何が?」


『実は…』




虫歯の治療で顔が腫れてたから
会いたくなかったって。




「心配させんなよ!」


『だってブン太笑うでしょ!』


「当たり前だろ!なに女みたいなこと言ってんだよ!」


『女子だよ!だから、その』




あまりくっつかないで。




聞こえた声はすごく小さくて。

いつの間にか追い越した身長や、
力の弱い腕。

それに気付いたときには
居たたまれなくなって背中を向けてしまった。




「仁王の奴がおかしなこと言うから」


『どうしたの?』


「俺の部活のメンバーがさ、名前を恋愛対象として見てないのかって」


『え?』


「どう思う?」




やばい。振り向けねえ。
何でこんなに意識してんだよ。




『わ、私は嬉しいよ』


「え?」




今、嬉しいって言ったよな?

幼馴染みじゃなく、その、
恋愛っていう意味で見られること。




『…ブン太は?』


「俺は…」




嬉しくないわけはない。

だけど、そうなると
今までと同じようにいれなくならないか?

笑って、バカなことやって、
そういうのがすげぇ楽しいからさ。




「へぇ、名前ちゃんって俺のことそういう風に見てたのかよ」




わざと今まで通りの軽口で笑ってやる。

そうしたらきっといつものように、
冗談だって笑ってくれるだろ?




『アハハ…』




ほら。振り向けばきっと。




『冗談に、決まってるよ』




ほら、笑ってる。
涙を目にいっぱい溜めて。


考えろ。

こういうとき、俺は何て言ってやった?




「なあ、名前」


『ん?』


「俺のことマジで好きならさ」


『………』




「俺のこと惚れさせてみろぃ」




『す、好きじゃないんで結構です!』


「生意気だぞ!」




ごめん。本当にごめん。

好きだったよ、ずっと。


だからこそ、お前との距離が怖いんだ。




この日から俺達の間では、

俺達の関係についての話はタブーとなった。


いつまでも続いていくと思った関係は

名前がアイツと出会ったことで
少しずつ変わっていく。




名前。

今、お前は俺といたあの頃より
たくさん笑ってる?


もしそういてくれてるなら、
我慢した甲斐があるってもんだ。




だからこれからも

幼馴染みとして傍にいさせてくれよな。




本当は大好きでした。






おわり。

20150311

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