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□feel
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小さい頃から一緒にいて

たくさん遊んで喧嘩して
一番一緒に笑った大事な幼馴染み。

そんなブン太が、
幼馴染みじゃなく恋人だったらって
考えることもあるけれど

やっぱり私は
今の関係が壊れてしまうことが
どうしても怖い。


築き上げてきた時間は長いけど
壊れてしまうのはきっと一瞬で

今までも、これからも
大切にしていきたいと思うから

余計に。








「名前ー!」


『………』


「名前!聞こえてんだろ」


『…もうブン太。恥ずかしいからやめてよ』


「お前が無視すんのが悪いんだろ!」




おりゃっと言う声と共に
後ろからくしゃくしゃにされた私の髪。

せっかくセットした髪は
いつもこれで台無しになる。


この歳になっても
ブン太のすることは
昔と何一つ変わってなくて

それについていけていない
少しだけ大人になった私の心。

まわりの目も気にして
髪を直しながら睨み付けても
それに気付けていないブン太は首を傾げた。




『…ブン太の今の顔、嫌な予感しかしないんだけど』


「なあ、ラーメン食って帰ろうぜ」


『ほらやっぱり。ブン太に付き合って私2キロも太ったんだよ?』


「変わってねえって。大丈夫。な?」


『う…』




ブン太に笑いかけられると
私はいつも弱い。

つい条件反射で頷いてしまうと
ブン太は満足そうな笑みを浮かべた。




「じゃ、早く行こうぜ」


『…はぁ』


「あ!そういやさ」


『うん?』




一歩踏み出したところで
ブン太は突然振り返り、私へと向き直る。

それに何だか違和感を覚えたのは
きっと私が長い時間を
ふたりで過ごしてきたから。




「名前って好きな奴とかいんの?」


『え?』




思いがけないブン太の問いに
変な汗が出る。

まさかそういう話題を
ブン太から振られると思ってなかったから。


もちろん本当のことなんて言えるわけない。

私は恋人としてブン太に会いたいけど

ブン太は?
違うでしょ?

ブン太の目の前にいるのは
いつもの幼馴染みの私。

何でも話せて、
昔から何も変わっていない私。


やっぱり怖いの。

ブン太に好きだって言って
友達でいられなくなることが。

それなら私は




『好きな人なんて、いないよ?』


「あーそっか。…実は名前のこと気に入ってる奴がいてさ」


『え?』


「紹介してくれってうるさくて。まあ、いい奴だし、名前も気に入ると思うけど」


『…う、うん』




「俺から断っとくから」




『……え?どうして?』


「気付いてねえのかよ。…名前泣きそうなの」


『そ、そんなことないよ!』




どんなに笑ってみても
言い訳してみても
ブン太にはバレてる気がする。

好きな人にそんなことを言われて
悲しくないわけがない。


優しく指で目尻を拭われて


「ほら、やっぱ泣いてる」


ブン太が困ったように笑ってくれたら
溜め込んでいた言葉が溢れてしまいそうで。




『…ごめん。好きな人がいないなんて嘘なの』


「そんなの気付いたに決まってんだろ」


『…なんで』


「幼馴染みサマなめんなって」




また髪をクシャクシャにされたけど
今は色んな感情が混ざりあって
直す気力もない。

俯くと、
膝を曲げて私の顔を覗きこむブン太と目が合った。




「…名前ってこんなに可愛いかったっけ?」




まじまじと私を見つめて
真剣な顔でそんなことを言うから
期待してしまいそうになる。




『変わってないよ』


「昔はもっと男っぽかったって。お前もその…」


『なに?』


「女だったんだな」


『し、知らなかったの?』


「…悪ィ」


『もう!』


「いてっ」




ただただこの時間が嬉しくて

これが続くなら
幼馴染みのままでいいやなんて
そう思えた。


ここは私だけの居場所。

いつの間にか追い越された身長や
逞しくなった腕は
きっとまだ私だけが知っていられる。




『そう言うブン太こそ、好きな人いないの?』


「俺はいるよ。つうかできた」


『嘘…誰?』


「…教えねえ」




ごまかすような軽い口調と
逃げようとする背中。




「腹へったし、もう行こうぜ」




顔も見ずに歩きだすブン太を
追い掛けようとしても足が動かない。

それに気付いたブン太が振り返って
私を歩かせようと促すけど
やっぱり足は動いてくれなかった。




『だ、誰なの?好きな人って!』


「だから教えねえって」


『そんなのだめ。知りたいの』


「あーもう。…お前だよ、お前」


『………』


「これで満足だろ?」


『………』


「何黙ってんだよ。言わせたの名前だからな!」




はじめて見るような照れた顔や
落ち着きのない視線。

その全てが新鮮で

望んでいた言葉が
こんな風に聞けると思っていなかったから
思考がついていかない。




「もう言っちまったもんは戻せねえからな」


『うん。私は、ずっと好きだったよ』


「え?俺の、こと?」


『ブン太以外いないよ!』




口とはウラハラで面倒見がいいとこも
優しいところも
全部全部好きだった。




「え、えーっと」


『物心ついた時からずっとだよ!』


「え?マジで?」




こんなに驚かれるとは思ってなくて

私に近付くブン太の目は
少し怯えているようだったけど

目の前に立った瞬間には

いつもの自信に満ちている表情に戻っていた。




「悪ィ。俺はさっき気付いた。名前も女だって分かってさ、好きな奴なんてできてほしくないっつうか」


『…遅いよ』


「悪かったって」




伸ばされる手は震えてるように見えたけど

ゆっくりと抱き締められて

私は夢のようなこの光景に
目を閉じることもできなかった。


恐る恐る背中に手をまわしてみたら
そこにはちゃんとブン太がいる。

夢じゃない。


何年先も変わらずに
私はブン太と一緒にいる。

私達はこれからも
一緒に大人になっていける。






「あー…俺気付いちゃったんだけど」


『なに?』






「多分俺も、ずっとお前だけが好きだったっぽいわ」






おわり

20150826

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