main

□それだけ
2ページ/2ページ


「え!?
ひどっ!」

「おーっと。
開けるのは、俺がいなくなってからじゃ。
殴られないように、避難しとくぜよ」


袋を開けようとした手を掴まれて

よく手を繋いだこと

大好きな温もり


彼の言動のひとつひとつが

当時を思い出させる。



もう、過去のことなのに。



「じゃあ、またな。
高校でも頑張りんしゃい」


頭をくしゃっと、撫でてくれた仁王はゆっくりと私に背を向けて

前へと歩きだす。



四月からは別々の高校。

またなんて、来るのだろうか?




「……仁王!!」


つい名前を呼んでしまった。

次の言葉なんて考えてないのに。


だけど、だけど


「仁王!
私、私今でも仁王のこと!」

「名前。」


ただ名前を呼ばれただけ。


ただそれだけなのに

幸福感を得るにはじゅうぶんで


「仁王じゃなくて、雅治って呼びんしゃいって言っただろ?」


ニッコリ笑ってくれた貴方を困らせる言葉は

これ以上紡げなかった。



「私、雅治のこと一番……誰よりも、応援してるからね!」


そう言うのが精一杯で


手を振り、また歩きだす

彼の背中をただ見つめてた。



未練がましいのは、私だけか。

そもそも、付き合ってくれたのも、私がしつこかったからだったりして。



苦笑いを浮かべながら、2度目の失恋記念に、梅飴でも食べようと袋を開ければ


「…………嘘つき」


制服のボタン全部に、パッチンガム


私が欲しいと言ったピンクゴールドの小さなハートのネックレス。


それと飴の形のメモ一枚


「…梅飴なんて、ひとつも入ってないじゃん」


予想外の品々に思考がついていかない。


そしてメモを見て

私は号泣した。


"泣き虫な奴には、すぐ会える奴の方が幸せじゃ。

でもな、本当は俺の方がベタ惚れだった"



たったこれだけで

全てが報われた気がしたの。




「どうせなら、最後まで詐欺師になってくれたらよかったのに」






ただ貴方のそばにいたかった。


最初はこれだけだった願いが


いつしか欲にまみれて貴方を苦しめてたんだね。



優しい貴方だから

私を突き放したんだってどうしてわからなかったんだろう。



でもね

でも


それでもただ貴方と一緒にいれたら

私は泣きながらでも頑張れたんだよ。



貴方との時間を守るためなら

なんだって出来たのに。



ただそばにいたい


それだけが望みだったの。










fin*
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ