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□それだけ
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ただ

それだけだった




† それだけ †



「今日で最後じゃのぅ」



私の横で、ポツリと呟くのは元カレの仁王。


ずっと大好きで、片想い2年して、3年生になって告白してもらえて付き合って

最高に幸せな1年だった。



「あんまりメンツ変わらないから、パッチンガム試せないね」

「それな。
ほんと、つまらん。
もう使わんき、お前さんにやろうか?」


ニヤニヤと笑うその表情も堪らなく好きで

こうやって隣にいると付き合っていた頃を思い出して錯覚してしまう。


もう……フラれていることさえ忘れて。



きっかけなんて、なかった。

本当に急に別れを告げられた3月。


ありがちな

テニスに集中したいって理由に


私は嫌だとは言えなかったんだ。



「いりませんー」


べーっと舌を出せば、やっぱりあの頃みたいで

フラれてからずっと話さなかったなんて嘘のよう。


だけど、彼の制服にはボタンがひとつもなくて

新しい彼女ができたのかもしれない。


その罪滅ぼしなのかな。


それとも最後だから


優しくしてくれるの?




聞きたいけど聞けない言葉。

だって今が、幸せだから。



「なら、こっちな」


渡されたのは手のひらサイズの紙袋。


「なにこれ?」


「ホワイトデー、返せなかったからの」



……律儀だなぁ。

別れたんだからいいのに。


「まぁ、お前さんの嫌いな梅飴だけどな」
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