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□blind alley
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イライラする。
彼女の言葉や行動全てに。

どうしてこんなに彼女が憎いんだろう。


彼女の行動ひとつひとつが
俺の神経を逆撫でして

苛立ちがおさまることはない。






『幸村、これ』


そう言って名前から差し出された手紙を見て
俺は顔をしかめた。

それはきっと目の前にいる人物からではなく
別の誰かから渡されたものだということが
分かっていたから。




「悪いけど返しておいてくれるかな?」


『できないよ!』




ため息をひとつ吐いて受け取れば、
あからさまに安心したような顔をする。


名前を通して
プレゼントや手紙を受け取ることは何度もあって、

その度に受け取らないよう
きつく言ってもやめないから、
受け取らないことを期待することは
もう諦めた。


同じクラスでよく話す唯一の女子生徒は
名前だけだからいいように利用されて、

そういうところにも苛立ってしまう。




『じゃあこれで』


「もう受け取るなよ」


『うん』




嘘つき。

期待してない言葉を投げ掛けて、
期待できない言葉が返ってくる。

名前の背中を目で追っていると
席に戻らずそのまま窓の方へ行き
何かを熱心に探しているのが気になって
つい俺は立ち上がった。






「何を見てるんだい?」


『ううん!何でもない!』


「本当に?」


『あ…明日晴れるかなって。そ、それより幸村は彼女とかいないの?』


「何?突然」


『あんなに手紙を貰っても全部断ってるみたいだし』




思い返せば、
今まで色恋沙汰には無縁だった。

好きだと言ってくれる人はいたが
全て断っていたし、

目標ばかりに目がいって、
考える時間がなかったということが正しいが。


考え込んでいる今も
名前は嬉々としながら
俺の返事を待っていて、
それが無性に腹立たしかった。




「じゃあ、名前にだけ本当のこと教えてあげるよ。耳貸して」


『うん?』




無防備に身体を寄せてくる名前の耳元で話す言葉は
誰にも言っていない俺の汚い本音。

幻滅されたらそれはそれでいい。
距離を置けばいいだけだから。




「まず第一に」


『うん』


「俺は他人を頼って気持ちを伝えてくるような人間を好きにはならない」


『え?』


「お前が手紙を渡してくるたびイライラするんだ」


『ゆ、幸村?』




狼狽えて後ずさる名前に
俺が今まで作り重ねてきた完璧な笑顔を浮かべると動揺が見える。




「驚いた?」


『う、うん、驚いた』


「俺もだよ」




本音なんか見せてこなかった。
一線引いて、みんなが望む俺を演じる。

それは名前にたいしても同じこと。




『そんな風に思ってたんだね』


「がっかりさせたかな?」


『ううん。本当のことが知れてよかった。胡散臭いと思ってたし』


「…うるさいよ」




ああ、悔しい。
何が胡散臭いだよ。

少しは勇気を出したのに何でもない顔をして。




「ねえ、さっきの話の続きだけど、名前は彼氏いないの?」


『えっと、その…』




口ごもる名前にまたイライラする。

どっちとも言えないその態度に痺れをきらして、
俺は彼女の顔に自分の顔を寄せていった。




「言わないとキスするよ」


もちろん冗談。




『き、キス!?』




逃げようとする腕をとっさに掴んで、
ゆっくりと顔を寄せていくと
思い切り顔を反らされる。

そして赤くなった顔や
奇妙な声で確信する。




「お前、彼氏いないだろ?」


『彼氏はいないけど!でも』
「ハハハハっ。そうだと思った」




少し不機嫌になった名前がおかしくて、

でもそれより

彼氏がいなかったことが嬉しい。




「ねえ、名前」


『う、うん?』


「これからも一緒にいてくれる?たぶん俺はお前が思っているような人間ではないけれど」


『大丈夫。どんな幸村でも友達だよ』




無邪気に微笑んだ顔を見て、
頭で考えるより先に


「好きだよ」


気持ちは言葉となって溢れていた。




『え?』


「友人として」


『もう!驚かせないでよ』


「名前をからかうのは面白いからね」




今はこのままでいい。

動きだした気持ちはまだ隠して
いつか完全になったら伝えよう。






『あ!蓮二だ!』






彼女が本当に笑える場所を知らないまま、

俺の気持ちは彼女に奪われていく。






『彼氏はいないけど!でも』




あの時、

この言葉の続きを聞いていたら、
こんなに傷付かないで済んだのかな。




ねえ、名前。


教えて。






おわり。

20160718

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