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□marvel
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思いがけないことは
何の兆候もなく突然やってくる。


例えばそれは
好きな人がさりげなく言った

何気ない一言だったり。






『え、仁王って好きな人いたんだ…』




まさにこれが青天の霹靂。

それに続く仁王の言葉は、
私の耳をすり抜けて
少しも頭の中に入ってこなかった。


こう見えて仁王には
特定の仲の良い女の子はいないから、
好きな人がいるなんて考えたこともない。

でも、よくよく考えてみれば
いつも女の子に囲まれてるテニス部だし
恋愛を感じる要素はたくさんある。




『そっか。好きな人いたんだ…』


「そんなに意外か?」


『そう、だね』


「でも名前は、もちろん応援してくれるじゃろ?」


『え!ど、どうしようかな!なんて、アハハッ…』




わざとらしく笑ってみても、
なんだか空気がしらけてる気がする。

応援はしたくない、というかできない。

私の感情を推し測るように
じっと瞳を覗きこんでくるのが嫌で
視線はさりげなく仁王から避けてしまった。




「名前もおるんじゃろ?好きな奴」


『いるけど、いるんだけどさ』




仁王のことだよ、なんて
絶対に言いたくない。

俯いたままの顔は
仁王がそんなことを言いだすから
あげられなくなってしまった。


私の好きな人のことを
今この場で言うべきではない。

もし私が仁王のことを
好きだと伝えてしまったら

結末はもう見えている。




「はっきりせん奴じゃのう」


『に、仁王みたいにね、自信を持って言える人ばかりじゃないの』


「俺だって自信があるわけじゃないぜよ」


『え?』




思わず顔を上げると
仁王が真剣な顔で私を見つめてて、

ドキリとしたけど
視線を外すことはしなかった。




「俺も好きな奴に嫌われるのは怖いし、好かれてないのもきつい」


『仁王もそんなこと思うんだ…』




ポツリと口から出てしまった独り言は
仁王の耳に届いてしまったようで
微かに笑っている。

仁王はモテて、うまく立ち回って、
そんな心配してるなんて思いもしなかった。

どこかで、
私と仁王は違うんだと思って。




『ごめん』


「何で謝るんじゃ?」


『仁王のこと誤解してたというか』


「別に。好きな奴にだけ分かっててもらえればええんじゃ」




好きな奴。
また話が戻ってきてしまった。

仁王の好きな人。
付き合いたい相手。




『その子のどこが好きなの?』


「どこと言われてもな。全部としか言いようがないんじゃが」


『そ、そう!恥ずかしいからもう言わなくていいから!』


「聞いたのは名前じゃろ」




うん、聞くんじゃなかった。

焦った顔をしてる私とは対照的に
仁王はいつも通り、
いや、うっすらと笑みさえ浮かんでいる。




「で、もちろん応援してくれるじゃろ?」


『そこでまた話が戻るの?』


「ええじゃろ。俺とおまんの仲じゃ」




ああもう、何て答えればいいんだろ。

応援しないと言えば、
それはそれでだめな気もするし。

応援すると言ったら
これから先
私と仁王はどうなると思ってるの。




「名前?」




今までよりもっと近くで
仁王が私の顔を覗きこんでくる。

相変わらず綺麗な顔。

その鋭い目は私の何もかもを
見透かしてるんじゃないかと思うくらいで
何だか怖くなった。




「名前?さっきから聞いとるのか?」


『うわっ!』




いつの間にか仁王の両手に包まれた
私の両頬。

すぐに力を込めてその手を外そうとしても

やっぱり男の子の力には
全くと言っていいほどかなわない。




「名前、どうなんじゃ」


『わ、分かったってば!


仁王は、

私のことが好きなんでしょ!』




確証はないけど確信はある。

こんなことを言われても
仁王は少しも動揺する素振りを見せずに
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。




「正解。で、返事は?」




『い、今は答えられない』


「理由は?」


『だって答えたら恋人になっちゃう。だから、答えたくない』


「そいつは嬉しいが、そんな答えは認めん。どうして付き合いたくないんじゃ」




ぐいっと顔が近付いてきて
一気に頬が熱くなる。

もう逃れられない。

きっと仁王は私が理由を話すまで
絶対に逃がしてはくれない。




『…仁王と付き合ったら、絶対にもっと好きになる』




女の子と一緒にいるだけで不安で
心変わりも怖くて、
いつか別れるときのことを考える。

毎日そんな怖いことを思いたくない。

だから付き合うのは嫌なんだ。




「少しは信用しんしゃい。俺の方が名前のこと好きぜよ」


『そんなの分からないじゃん』


「まったく。どうしたらええんかのう」


『まずは、そ、その手を離して』




顔を固定されたまま話す緊張も
そろそろ限界。

本当に仁王のことは好きなんだよ。

でもこの一歩が簡単に進めてたら、
こんなにウジウジ長い時間一緒にいなかった。




「仕方ないのう。今回だけは特別じゃ」


『え?』




近付いてきた仁王の唇が
一瞬だけオデコに触れて、

驚いた私は
勢いよく後退ってしまったと同時に
尻餅までついてしまった。

それに驚いた仁王がしゃがみこんで
手を差し出してくれたけど

痛さとか、恥ずかしさとか
そういうことじゃなくて
目からはジワジワと涙が滲んでくる。




「名前、大丈夫か?」


『だ、だから嫌だったんだよ!
やっぱりもっと好きになったじゃん!』


「名前」




ああ、もうやだ。

こうなることはなんとなく分かってた。

いつも仁王の思う通り。




最後はやっぱり仁王の腕の中だ。








おわり

20180204

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