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□two
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お前だけに、誓うこの言葉
* two *
「はぁぁ‥」
デジャヴかと思うくらいのため息を吐く名前。
「せっかく、綺麗に着飾ってるっていうのに、随分重いため息じゃねぇか。」
ここは結婚式場の控室。
なのに、本日の主役である新婦は、似つかわしくない声とともに純白のドレス姿で鏡の前に座り、肩を落としている。
横に並んでその場にしゃがみこみ、目線を合わせようと顔を見た。
普段よりも洗練されたメイクに、見惚れていると
「いや、嬉しいんだけどさ、改めて見たら会場の規模がでかすぎて、裾を踏んで盛大に転ぶ姿しか思い浮かばなくて」
顔面蒼白にしつつ、眉間にしわを寄せて、そんな心配事を吐き出してきた。
何を悩んでるのかと思えばそんなことかと言わんばかりに鼻で笑って
「転ぶ前に抱きかかえてやればすむ話だろうが」
と自信たっぷりに言ってやる。
「それは、王子様みたいでカッコいいけど、普通の演出でしてほしい!」
そう言いながら、今度は少し頬を赤らめて俺を小突いてきた。
式の本番前に、こんなに感情が目まぐるしく変わるなんて、本当に忙しいやつだな。
「もし、跡部様は渡さないわ!って、どっかの令嬢が扉バーンしてきたら、どうしよう‥」
微笑ましく眺めていたら、とうとう妄想までし始めた。
「ばーか。
俺とお前の10年の付き合いは、そんな女に壊される程度のもんじゃねぇだろ」
付き合ってから10年。
中学の卒業式の日に、高校でもまたみんなに付き合いを認められるようにならなきゃなのかと不安になってた名前のことを鮮明に思い出せるくらい、二人で一緒に過ごした日のことは全て覚えてる。
あのどれもが必要で、たくさんの時間を過ごしたから、今の俺たちはここにいて、ようやくあの日に誓った言葉を言う時がきたんだ。
「それとも、俺様の愛情表現が足りねぇってクレームか?アーン?」
ズイッと名前のほうに顔を近づければモゴモゴしながら、そうじゃないけどと、小さな声。
「なら、どうすればいいかわかってんだろ?」
俺はお前に一度言ってるんだからな。
覚悟を決めたように俺の方を向き、立ち上がると勢いよく抱きついてきて
「景吾!私が、幸せにしてあげるから、一生離れないでね!死ぬまで愛してね!」
男前と甘えん坊を混ぜたようなことを言ってきやがるから、思わず笑っちまったぜ。
本当に、俺をここまで楽しませられる奴はお前だけだ。
「当たり前だろうが。
だがな、幸せにするのは俺様の役目なんだよ。
今日は、証人がたくさんいるからな。
よーく聞いとけよ。
俺様からの名前への愛の誓いスペシャルフルコースを!」
あの日誓ったこと。
神になんざ祈るな。
祈るなら俺にしろとずっと言ってきた。
お前の願いを叶えられるのは、俺だけだからな。
それと同時に、俺の願いを叶えられるのも名前だけだ。
もう、お前以外愛せない。
もう、お前以外とじゃ無理になっちまった責任をとってもらわねぇとな。
だから、死が二人を別つとしても、それすらも抗ってやる。
「じゃあ、行くとしますかお姫様。
さぁ、お手をどうぞ」
「もう!ただでさえ、タキシード姿カッコいいんだから、お姫様扱いまでしないで!」
「アーン?
好きだろうが、こういうの」
「‥えぇ!大好物ですとも!」
「俺も名前の全部を愛してるぜ」
今までの10年も
これから先の未来も
変わらず2人で。
fin