亀の生活
□役割(ニック)
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子供の頃からこいつは変わらない。一人で勝手に突っ込んで行って、怪我して、先生に怒られて
でも、俺は知ってる
何も考えないで突っ走ってるわけじゃない。ちゃんと考えてる。好奇心は俺たちより旺盛な弟たち。特に何でも触りたがる末っ子に対して、あいつは先に触る。最近はほっとくけどな
亀一倍怪我の多いすぐ下の弟。俺だけが知ってる、ラファの思い
『家族はオレが守るんだ』
そう言っていた。ドナたちは覚えてないみたいだけど、忍術の稽古を始めたぐらいの時だったな、確か。ラファ自身も覚えてるかどうかわからない子供の頃の言葉。先に言われてしまって、俺もなんて便乗出来なくて。便乗したらバカにされそうで、意地はって言わなかった気がする
最近、そんな事を考えてて気付いた
家族を守るラファを誰が守る?
今のラファなら、オレは守られなくても良いんだ、とか言いそうだ。ていうか、絶対言うだろ
ふとそんなことを考えて、俺は立ち上がってラファの所へと向かった
ラファはリビングでスパイクと戯れていた。ドナとマイキーはいない。多分ラボだな。今朝、マイキーがスケボー壊してたし
「ラファ」
俺が声を掛けるとスパイクに向けていた笑顔を消して顔を上げる。そのまま笑ってたらいいのに
「何だよ」
「随分ご機嫌だな」
「せっかくのスパイクとの時間を邪魔されたんだ。ご機嫌にもなる」
「それは悪かった」
隣座るぞ、と言えば嫌な顔をしつつも少し寄ってくれた。出来たスペースに腰を降ろすと、スパイクが首を伸ばしてきたから、頭を指先で撫でてやる
「何か用か?」
「いや、大したことじゃないんだが」
さっき考えていたことをラファに聞いてみた
「家族を守るお前を誰が守る?」
「はぁ?」
いきなり何をって顔をするラファに、主語が抜けてたな、と苦笑した
「稽古を始めたばかりの頃、お前が『家族はオレが守るんだ』って言っていたのを思い出して、じゃあ家族を守るラファを誰が守るんだと思って」
スパイクを撫でていた指先を止め、ラファに視線を向けると予想通り、呆れた顔をしていた
「オレは守ってもらう必要はねぇよ、オレ様は強いからな」
これも予想通りの返答だった。確かにラファは強いと思う。組手だって俺と五分五分だし、純粋に戦闘力だけだったらラファが一番なんじゃないかっておもってる。でも、それじゃダメなんだ
「万が一ってのがある。ラファが傷付いたら悲しい」
「……何だよ、らしくねぇな」
ラファからしたら、俺の表情が不思議だったのか、眉間の皺が深くなった。どんな顔してたんだ、俺
「俺、家族に傷付いてほしくないんだ。ラファと同じで、守りたい」
「てめぇはリーダーだろ。守るよりオレたちを勝利に導けよ」
あぁ、そうなんだ。俺はリーダーだから。戦いになったら戦況を分析して采配しなきゃいけない。一歩間違えたらみんなを危険に晒す。ラファたちが傷付いたら、俺は混乱して動揺して判断を鈍らせてしまう。まだまだ精神的にも脆いリーダーなんだ
「ただでさえプレッシャー背負ってんのに、これ以上何を背負うつもりなんだ。オレのこの役割はドナにもマイキーにもさせられねぇだろ」
丈夫なオレの役割だ、とラファは笑った。だから、とラファは俺の肩を叩く。その表情は時々見せる凄く優しい笑顔だった
「オレは家族を守る。お前はオレたちを導け」
それがお互いの役割なんだ、とラファは言う。それは理解できた。けれど、やっぱりラファを守るものがない。傷付いてばかりのこの弟を守る何かが欲しい。ぐるぐる考えて、一つの案が浮かんだ。その案はとても単純だけど、今の俺たちにぴったりな気がした
「なぁ、ラファ」
「何だよ」
スパイクを肩に乗せて立ち上がったラファを下から見上げる。エメラルドグリーンの瞳が俺を見ている
「ラファは俺たちを守って、俺はラファたちを勝利に導く」
あぁ、とラファが頷く。ラファの視線を受けたまま俺も立ち上がり見つめ返す
「それはリーダーの俺の役目」
なら、もう一つ。役目をくれ
「兄として、お前を守らせてくれ」
そう言ったら、ラファはキョトンした表情をして、次の瞬間何故か顔を真っ赤にして、必要ない!!と叫びながら部屋へと行ってしまった
許可はくれなかったけど、そうすることにしよう。家族はラファが守ってくれる。俺はそんなラファを守りたい。いや、守らなきゃいけないんだ。大切なものはこの手で守る。あの子がこれ以上、傷付いたりしないようにするために
『お前を守るのが俺の役目』