ギアステvsプラズマ

□07
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ポケットから出した派手な色のチューインガムを口に入れた。

「……あ」
人工的で安っぽい苺の味を楽しんでいると、受信器に繋いだイヤホンから“お使い”に行っているノアの苦しそうな息遣いが聞こえた。
今あの娘は何をしているんだろう。 18歳になるまで手を出さないなんていう口約束を律儀に守っている(!)ぼくはこんな声を聞いたことがないから何だか凄くワクワクする。 まぁ走っているだけだろうけど。

でも厳選で鍛えてるノアがこんなに苦しむなんて相当なピンチに違いない。 なんて可愛いんだろう!
ノアが捕まっちゃったら助けに行こう。 ボロボロになったあの娘をお姫様抱っこして連れて帰ってたくさん愛してあげたい。 そしたらぼくはノアのヒーローだ。


「さっきから何を聴いているのですか?」
ノボリの嫌そうな声でぼくは現実に引き戻された。

「息抜き。 何かおかしい?」
にへら、と笑顔を返してやる。
休憩中とはいえ勤務中だからクソ真面目なノボリが嫌がるのもムリはないけど、別に怠けてるワケじゃない。

「御前がそんなにニヤニヤしている時点でおかしいのです。 一体それは何ですか?」
「ノボリこそなにソレ。 ぼくが笑ってるのはいつものことだよ」
ノボリがぼくに向けているのはサボリ魔に対する目というより、子供の頃ぼくが危ないもので遊んでるのを止めようとしているときの目に近かった。 ヤダヤダ。

「いいえ口ではありません。 目ですよ。 どうせノア様に盗聴器でも仕掛けたのでしょうが」

やっぱりノボリにはバレていた。
お互い隠し事は難しいからまあいいか。

「何時から分かってたの」
「御前がノア様に細工をしたピアスを渡した時からです」
「ちぇー、早い」
ぼくの声に被さるようにイヤホンからノアの悲鳴がなだれ込む。 ああゾクゾクする。 もっと聞きたいな。

「それにしても恋人をわざわざ危険に突き落とすとは。 御前の嗜虐趣味は知っていましたが、本当に悪趣味ですね」
「じゃあ何で止めなかったのさ」
「1%の希望もないことはしない主義ですので」
「……」

ノボリは生ゴミを見るような目でこっちを見てる。

「そんなこと言えたもんじゃ無いくせに」

ぼくは傷付いてすりよってくる女の子を可愛いと思ってるだけだ。それが元々好きな娘なら尚更。

第一、ぼくがこんなになったのは高校生のときにぼくが好きだった女の子をノボリがシャンデラ(当時はランプラーだけど)が居るからって手酷く振ったせい。
あの娘にはぼくがノボリの代わりに優しくしてあげたけど、ぼくを見てはくれなかった。

「悪趣味なんて、手首に縄の痕つけといてよく言うね」
「なっ、」
ノボリが不意をつかれたというような顔で急いで手首を確認した。 あー笑える。

ノアは初めてぼくだけを見てくれた女の子だ。 だからあの娘は絶対ぼくのモノ。
ノアが酷い目に遭うのはちょっと心が痛むけど、ノボリに言われたって諦めたりしない。

「端から見たらノボリだって人のこといえない。 そう思わない?」
ノボリがしめているお揃いの青いネクタイを引っ張った。
黒いノボリと白いぼく。
正反対に見えたって中身は同じだ。

「わたくしはただ……」
「『シャンデラに燃やされたいだけでございます』なんて言うの?
 あのね、それ根っこはぼくのと同じなの。 好きなひとと一緒にいたいって気持ち」

そう一気にまくし立てた。
そういえばさっきからノアの声が聞こえない。
何かあったんだろうか?


「……純粋なる不純、ですか」
「そんなとこだろね。 ――え?」

急に聞こえてきた声に、ぼくはイヤホンと自分の耳を疑った。

「どうかしまし……」
「黙ってて!!」

嘘だ嘘だ嘘だ。

どんなにそう思い込みたくても、ノアの苦痛に満ちた声と鎖のぶつかる音はホンモノだった。

「ノア……!」

ああどうしようぼくのノアが誰か別の奴に喰べられてしまう早く助けに行かなくちゃ。

ぼくはノボリの制止も聞かないで外へ飛び出した。


つづく
 

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