花京院×7th女主

□末期の黄昏
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「典明!!」

彼の名を呼んだ刹那、何かが背を貫いた。

続く衝撃。
奇妙な浮遊感。

色を失くした家が、人が、ビルが、街路樹が、背後に移動していく。 コマ送りのように遅く、遅く。
――アタシ達は、吹っ飛ばされている!!
「ディープ……パープル……!」
発した声が酷くかすれているのがわかったけれど、そんなことに構っていられない。
間に合えと祈りながら、眼前に迫る給水タンクへ、さっき移動に使ったのよりずっと強い高圧空気を逆噴射する。


「!!」
いくらもしないうちに給水タンクにぶつかり、景色が大きく揺れた。 世界に色が戻り、アタシ達は落下する。
顔を上げようと思ったが、横向きの姿勢のまま動けない。 眼前には典明が、アタシと向かい合うように倒れている。


世にも鮮やかで現実味のない光景だ。

特徴的な髪形の赤みをおびた茶髪。 深緑の制服。 さくらんぼのような赤いピアス。 紫色の瞳――そのどれもが血みどろで、
腰の細い胴体のみぞおち辺りにはふざけた大きさの穴が開き、赤い血と無残に千切れた血まみれの内臓が飛び出していた。
この傷はどこからどう見ても致命傷だ。 傷が深すぎるせいか痛みを感じないけれど、たぶんアタシも。


「菫子……、 ……」
血の気を失くした典明の薄い唇が、何か言おうとして震える。
もはや声かどうかも怪しい掠れた音。 アタシの名前だけはかろうじて聞き取れたけれど、他はわからなかった。

「しゃ……べ……ちゃ……だ、め …… 、」
なんとか絞り出した声はほとんど血に溺れてしまった。

でも、届いたって何の意味もない。
うまいこと血が止まって、ジョースターさんが探すように頼んでおくと言っていた臓器移植のドナーが
偶然見つかっていたら助かるかもしれないけれど、そんなのは望むのもアホらしい夢物語だろう。

十中八九、アタシ達はここで死ぬ。
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