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□第一章
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「んー……」

寝てたのか、と悟ると同時に、目の前にいる少女の存在に気がつく。
ただひたすら、じいっとこちらを見つめている。
赤茶けた髪、同じように赤色の大きく潤んだ眼。
長い前髪で片目を隠していた。

「……お前誰?」
「……」

こてん、と首をかしげただけで、何も言わない。

「なんか用?」
「……ぁ」

少女は慎重な動きで近づき、俺の頭に触れてそろそろと撫でる。

「や、なんで撫でんだよ……俺は犬じゃない」

すると途端に怯えたようにひゅっと手を引っ込めてしまった。
そして触れてきたのと同じくらい唐突に、思い出したようにちいさく呟く。

「……僕は、八重苳 鈴」

やえぶき、りん。
やっぱり聞いたこともない名前。
あぁ。昼に咲胡から聞いたような。

「……転入生?」

こくり。
無言で頷く。

「で、どうした?俺に用?」

脅かすつもりはなかったのだが、びくりと体を震わせ、ふるふると首を振られた。

「……しん」
「あ?」
「死んじゃう……」

予想しなかった答えに流石に唖然とする。

「いや死なねぇから」
「ご……めん、なさい……あの、じゃ……」
「ちょっ……待てって」
「……?」

逃げるように踵を返す八重苳を思わず引き留めただけだったが、なんでもないと言うのも気が引けた。

「えっと……今何時間目?」
「……放課後」

――放課後?

愕然すると同時に納得する。
道理で生徒がいない訳だ。

「じゃ、何時?」
「……時計、見て」
「は?
……え、ちょ」

走るような勢いで出ていく雰囲気ではあったのに、妙にゆっくりとした足取りで去っていった。

「時計見ろか……確かな」

見れば針は既に14時を指していた。

「あ、もうそんな時間……」

立ち上がろうとすると、背中に紙が貼ってあることに気付いた。

《やーい、寝坊助の恭輝め。
いつまで寝てん??
このまま放課後まで寝るつもりなんかなあ?
うちは早退するー、じゃねん
恭輝の咲胡ちゃんより》


「……何なんだよ」

そう言いながら、畳んで内ポケットにしまった。
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