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□第六章
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けたたましく鳴り響く時計をやっとのことで止めてずるずると這うようにベットから降りた。

――今は……何時?

「うー……?
あ、学校……ああ」

今日は火曜日だ。
昨日、鈴が普通学級に戻ってくる旨を担任からHRで全体に伝えられ今日から俺の隣の席に戻ってくる。
もう七時か……
寝ぼけ頭でなんとなく朝食を済ませて、歯を磨いたり着替えをしたりするうちにようやく覚醒してきた頭を軽く振って家を後にした。

そろそろのはず……

もう、そろそろか……?

後ろの気配を気にしながら暫く歩いていたが、いつもの衝撃がこないのでそっと振り向いた。

「咲胡?」
「……うっ……むっ」

奇妙な声が曲がり角の向こう側から聞こえた。
そちらの方へ行ってみると、案の定そこには咲胡がいる。

「どうしたんだよ」
「きょーきが……きょーきが、違うぅぅ……っ!!」
「……は?」
「きょーきが……いつもと違った……きょーき、の……ばかぁ!!」
「へっ……」

なんなんだ。
咲胡が喚いてるのはよくあることだが、今回は全く心当りがない。

「おっ……
幼なじみを、うぅ……そう、かんた、に捨てんなぁーっ……
転入……せーなんかに、心開くんじゃ……う、ばかぁ!!」
「……何言ってんだかわかんねぇよ。
聞き取れねぇだろうが、阿呆」
「幼なじみ!!転入生!!馬鹿!!」
「はぁ?」

キーワードだけ言われても。
取りあえず泣く咲胡の背中を二三回叩いて急かした。

「学校遅れっぞ」
「学校嫌いなくせにーっ」
「おめーは好きじゃん」
「知ったような口きくなっ」

まだ泣き顔ながらも笑ったのでほっとする。
知らず知らずの内に頬が緩んだ。


「……あれ?」
「なんだよ?ほら、前進め」
「恭輝が笑っとる!!熱でも食らったん?」
「……笑ってねぇよ。止まんな、人の顔見つめんな」
「あ、あの無愛想の恭輝が笑ったぁぁ」
「うるせーよっ」

教室まで送り届けてから、用があるからと断って踵を返した。

「……どこ行くん?」
「一分一秒足りともお前と離れちゃいけないのかよ。
すぐ戻ってくるし」
「授業さぼんないな?」
「……さぼるわけねえじゃん」
「馬鹿、馬鹿馬鹿やろー」
「朝から馬鹿馬鹿うるせーよ」
「もー……いいわ。
行くんだったらさっさと行っちゃえ」

意味わかんねぇ。
ため息をつくと咲胡に背を向けた。

「しかしあんなに大事な用ってなんだろか?
無関心人間が興味を持つもの……。って、あれ……!?」

ぶつぶつと背後から聞こえてきたが気にせずに目的場所に急ぐ。

「今言ったこと、ぜんっぜん聞いてないな、馬鹿ぁぁ!!」


     *     *

急ぎ足で裏門に向かった。

案の定そこには鈴がいて。
ずっとぼっとしたように校舎を見上げていた。
その顔はとても切なそうで、今にも泣くんじゃないかと感じたし、ただ見上げているだけにも見えた。
躊躇うように横に来ると、くるりとこちらを向いた。

「きょうき、くん」

そう言って微かに笑った気がする。
それからまた無表情に戻って首を傾けた。

「……なにしに?」
「迎えに」
「……なんで」
「なんでって?」
「なんで、僕を……迎えにきた、の?」
「いいじゃん、別に。
……教室まで行けるのは知ってるけど」

彼女が壁にぶつかるのを見たことはないし、方向感覚も優れている。
校舎の大体の教室配置も覚えているらしいので、本来俺が来る必要はないのだ。
強いて言うなら、

「知ってる……?
じゃあ、なんで?」
「……企業秘密ってことで」

強いて言うならば、鈴とするやり取りが心地よいのかもしれない。
深く入らず、無駄に話さず。
俺にはこのくらいの距離感が一番性に合う。

黙々と歩いて教室に向かった。
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