恋する本屋さん

□never lost memories
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side:紫苑

「…しおんっ…紫苑!」
誰かが僕を呼んでいる…誰が?…わからない…。
唯一わかるのは、その声がとても美しいということだけ。
体を揺さぶられ、重たいまぶたをゆっくり開けると、そこには僕を覗きこんでいる顔があった。

「紫苑…心配かけんなよ…」
そう言って安心したように肩を下ろす男の子は、息をのむほど美しかった。
流れるような黒髪に、整った鼻梁。
そして何より目をひくのは瞳の色。
吸い込まれそうな灰色は夜明けの空のようで。
こんなに綺麗な人…学校にいたっけ?
僕がじっと見つめていると、彼は不思議そうに首をかしげた。
「…紫苑?」
どうやら、僕のことを知っているらしい。
…だれ?
口を開こうとしたその時、誰かが視界に割り込んできた。
「紫苑…っ!何やってんだよ!!」
それは、同じクラスのイヌカシだった。
「…イヌカシ…?僕は…」
何故、自分が倒れているのか全く見当がつかない。
「窓の拭き掃除してる時に机から転げ落ちて…びっくりしたんだからな!この天然!!」
…天然は関係無い気がするが…何故倒れていたのかは思い出した。

「おいイヌカシ…紫苑は大丈夫なのかよ」
「あぁ…ま、キズもないし、頭もイカれて
なさそうだし…大丈夫だろ!」
イヌカシはそう言うと立ち上がり、犬の散歩があるからと急いで帰っていった。
取り残されたのは、僕とカッコイイ男の子。
「じゃあ帰るか、紫苑」
「あっ…えっと…」口ごもる僕。
「…?」眉間にしわを寄せる彼。
今言わないと…まずい気が、する。
意を決して僕は言った。

「あなたは…誰、ですか…?」
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