夜のサスペンス
□From-D
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Night crash
某月×日,土曜日・夜
時刻は午後八時を過ぎていた。
閑静な住宅街に2サイクルの甲高いエンジン音が響きわたる。
そのオートバイに乗っているのは都内の高校に通う坂上光一(さかがみこういち)だった。
彼はアルバイトの帰宅途中で、この日も家路を急いでいた。
今夜はどんよりと曇っているせいか、空には星一つ見えない。
間もなくヘルメットのシールドにポツリポツリと水滴が付きだした。
――とうとう降り出したか!
そう思いながらも光一は小さな交差点の赤信号で停車した。
間もなくシグナルが青に変わったのを確認して交差点を横断しようとしたその時!
右方向から信号を無視した車が突っ込んで来た!
それはあっという間の出来事だった。
静かな時の流れを打ち破る様に派手なスリップ音と金属がぶつかるクラッシュ音が辺りに響き渡った。
一瞬の静寂が辺りを支配する。
一体何が起こったのか解らなかったが、光一はすぐに自分は事故に遭っててしまった事を理解する。
しかし、体はまるで自分の体ではないような感覚で指先一つ動かす事が出来ない。
3,4メートル程離れた所からは車のヘッドライトが路面に横たわる光一を照らし出している。
車のドライバーは暫くの間方針状態のまま動かなかったが、その後すぐに車から降りて光一の倒れている所まで駆け寄って行った。
その男は懸命に何かを言っている様だったが、光一には何を言っているのか解らなかった。
やがて、男の声はしだいに遠くなっていく……
暫くして
誰かが通報したのか、けたたましいサイレンの音と共にパトカーと救急車が到着した。
……さっきまでは小雨だった雨も、いつの間にか本降りになっていた。
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──そして
光一が目を覚ました所は消毒液の香りが漂う病室の中だった。
【続く】