夜のサスペンス


□日没のサスペンス
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メール着信あり(後編)





玄関のドアがゆっくりと開いて中から妻が顔を出した。

「あら、あなた! お帰りなさい!」

「ぁ! た、ただいま……」

妻のいつもと変わらない対応に少し肩透かしを食らった感じだった。

――なんだよ、何か重大な話しがあったんじゃないのか?

そう思いながらも私は中に入って行った。

「あら、ちゃんと品物受け取ってきてくれたのね」

「あぁ、……まあね」

――うーん、やっぱりいつもと変わらない。
……それとも、本人が忘れてるのか?

「あなた〜! 晩御飯の支度出来てるけど、お風呂先に入る?」

「……飯にするよ」

私は当たり障りのない返事を返した。



――昼休みのメール……
『帰ってからお話ししたい事があります』

お話ししたい事って一体何だったんだ?
今のところ、その話を切り出す気配は無い……
やっぱり忘れてるのか?
そう思いながら、私は部屋着に着替えてダイニングテーブルの前に腰掛けた。
そして、いつものように瓶ビールをグラスに注いでくれる。

「ねぇ、あなた!」


――う、いよいよ話しを切り出してきたか……
私は平静を装い、いつも通りの返事を返した。

すると妻は話題を切り出した。

「今日もお昼のニュース番組でやっていたんだけど、最近って本当幼児虐待とかの事件多いわね」

「……ぇ!? ぁ、あぁ、そうだな」

――何だ、例の話しじゃないのか。
やっぱり、例の事はすっかり忘れているのか……

私は少し安堵の胸を撫で下ろした。

「ねぇ、あなた!」

「な、何だよ」

「不倫ですって……」


――ギクーッ!
来たぞ、来たぞ、来たぞぉーっ!
さあどうする? どうする? どうする私!


「ほら、タレントの桃尻 遥っているじゃない、その子に不倫疑惑ですって!」

――桃尻 遥?
何だ、不倫って芸能人の事だったのか…… おどかすなよ。
私は再び胸を撫で下ろした……


「あっ、そうだわ! ねぇ、あなた!」

「こ、今度は何だよ!」

「温泉旅行の事なんだけど……」

――ギギ、ギ、ギクーッ!
来た、来た、来た、今度こそ来たぞぉーっ!
ヤバいぞ、ヤバいぞ、これは超ヤバいぞぉーっ!

「ぉ、お、お、温泉旅行がどどどうしたんだ?」

「ねぇあなた〜、何動揺してるのよ?」

「ど、動揺なんかしてないぞ、何でもない!」

「何だか怪しいわね……
まぁいいわ、ほら、これ見てよ!
商店街の福引きでね、温泉宿泊券が当たっちゃったのよ!」

「おぉ、それは凄いな!」

「だから、あなたといつ行こうかなって……」


――うぅーっ、これは心臓に悪すぎるぞ!
温泉旅行って言うから今度こそあれがバレたのかと思ったじゃないか。
私は三度胸を撫で下ろした……
そして、又次が来るかと覚悟を決めていたが、特に何事もなく食事の時間は過ぎていった。




食事の後の寛いだ時間……
私は風呂に入ろうと立ち上がった。

「さてと、それじゃあ風呂に入るよ!」

「あら、それじゃあお背中流してあげましょうか?」

「べ、べつにイイよ」

「えぇ〜っ! せっかく私が背中流してあげるって言っているのに?」

「そ、そんなに気を使わなくてもイイって」

「あっ、もしかして…… あなた照れてる?」

「べ、べつに照れてなんかいねーよ!」



――なんか妙に優しいじゃないか。 怪しいぞ!
さては、風呂上がりに待ち構えて例の話しを切り出すつもりなのか?

そんな思考を巡らせていると、再び声をかけてきた。

「ねぇ、あなた!」

「な、何だ!? 背中は流してくれなくてイイぞ!」

「その事じゃなくて……
ちょっとお話ししたい事があるの……」




――きたーっ!
きたきたきたきたーっ!
ついにきたか! ヤバいぞ、ヤバいぞ、ヤバいぞーっ! 今度こそヤバいぞ!

私は心拍数が一気に跳ね上がる感覚を覚えた。

ここは妻が話しだす前に白状した方がいいのか……
それとも、あくまでもシラをキリ通す方がいいのか?
もしも素直に白状して、それが全く別の事だったら自分で墓穴を掘る事になってしまう。

うぅ〜っ、ヤバいぞ、ヤバいぞ…………



「あなた、どうしたの?」

「うぅ〜っ! わ、私が悪かった! 許してくれーーーっ!」


私は思わず動揺してしまい、無意識に謝ってしまった



「ぇ!? な、何? 何を謝っているのよ!
……それより、ちょっと聞いてくれる!
この洗濯機なんだけど、朝から全然回らないのよ」

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメ…… ん!? 洗濯機?」

「そうなのよ、故障しちゃったみたいなの」




――もしかして、話しって洗濯機の故障の事?

それにしても、メールでいかにも意味深に書かれていたら、あれこれと余計な事考えてしまうじゃないか。

私はとりあえず、洗濯機を診てみた。
ボタン操作をするも何の反応も無い。

「こりゃ駄目っぽいな……
この際だから新しいのに買い替えようか?」

「そうね、仕方ないわね
……それより、あなた!
さっきどうして謝っていたのかしら?」

「う゚……」

「ねぇ、あなた! 何か隠している事な〜い?」

「べべべ、べつに隠している事なんて無いよ!」

「ふぅ〜ん、ホントに……
まぁイイわ、そういう事にしといてあげるわ」




――ヤバかった!
……って、もしかして妻の奴、既に気付いているのかも知れない
知っていながら、知らないフリしている?

心が広いのか? それとも、何かの時に切り札として使うのか? 妻本人も色々思う事があるのか?





――ヤバい、ヤバ過ぎるぞぉーっ!
この先、何気に不安だ……














何とも微妙なオチですが……(^^;


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