夜のサスペンス


□日没のサスペンス
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メール着信あり(後編/ケースB)





玄関のドアがゆっくりと開いて中から妻が出迎えてくれた。

「あら、あなた! お帰りなさい!」

「あぁ、今帰ったよ」

妻のいつもと変わらない対応だった事に少し肩透かしを食らった感じだった。

――なんだよ、何か重大な話しがあったんじゃないのか?

そう思いながらも私は中に入って行った。

「あら、ちゃんと品物受け取ってきてくれたのね」

「あぁ、……まあね」

――うーん、やっぱりいつもと変わらない。
……それとも、本人がただ忘れているだけなのだろうか?

「あなた〜! 晩御飯の支度出来てるけど、お風呂先に入る?」

「……そうだな、風呂にするよ」

私は当たり障りのない返事を返した。



――昼休みのメール……
『帰ってからお話ししたい事があります』

お話ししたい事って一体何だったんだ?
今のところ、その話を切り出す気配は無い……
やっぱり忘れているだけなのか?
そう思いながら、私は部屋着に着替えてダイニングに戻った。
そしてそのままバスルームに向かう。

「じゃあ風呂に入る事にするよ」

「ねぇ、私がお背中流して上げましょうか?」

「い、いきなり何だよ…… 別にいいよ!」

「あら、どうして? たまにはいいじゃない
あ、もしかしてあなた照れてる?」

「べべ、別に照れてなんかいないよ!」

「あっ! やっぱり照れてるー!」

「だからー、照れてなんかいないって!
と、とにかく入るっ!」

「あっ、そうだわ! ちょっと待って!」

「な、何だ!」

私はさっさと風呂に入ろうとしたが、妻に強く引き止められてしまった。

「危うく忘れるところだったわ、お風呂入る前に話しておくわ」

「話しって何だ? …ぁ」

――も、もしかして、メールにあった『お話し』がくるのか?
ヤバいぞ、ヤバいぞ! マジでヤバいぞぉ!
ここは素直に白状するべきか? いや待て、白状してそれがもし全く別の事だったら……
ここはやっぱり、知らん顔を突き通す方がいいのか?
いやしかし……

私があれこれ考えを巡らせている中、話しを切り出してきた。

私はもう逃げられないと思い、観念して覚悟を決めた。

「ねぇ、あなた! お風呂入る前にお話ししておきたい事があるの」

「なな、何だよ話しって」

私は平静を装いながら返事をした。
しかし、心拍数は一気に跳ね上がっていく。

「ねぇ聞いてよ、この洗濯機なんだけど……」

「ほぇ?」

――洗濯機? 洗濯機だって? お話しって洗濯機?
私は思わず間の抜けた返事を返してしまった。
と同時に痛恨の肩透かしを喰らった感じだった。
今までの精神疲労は何だったんだ!


「ねぇ、あなたってば! 聞いてる?」

「ぁ、あぁ聞いてるよ、それで洗濯機がどうかしたのか?」

「実は朝から全く動かないのよ、ひょっとして故障しちゃったのかなぁ……」

私は洗濯機を診てみた。
ボタンを操作しても全く動く気配は無かった。

「やっぱりこれ故障みたいだな」

「やっぱりそう思う?」

「この際だから買い替えるか」

「そ、そうね」

「それより、メールで話しがあるなんて書いてあったから何事かと思ったじゃないか」

「あら、どうして?」

「あんな風に書かれたら色々と考えてしまうじゃないか」

「あら、一体何を考えるのかしら?」

「ぁ! ぃ、いや、何でもないよ!」

「何だか怪しいわねぇ」

「べ、別に怪しくなんてないぞ!」

「ねぇ、あなた、何か隠してるわね」

「べ、別に隠し事なんてしてないぞ!」

「そういえば、以前にあなたの背広のポケットに『PB』って書いてある使い捨てライターが入っていたけど、あれは何だったのかしら?」

――ギクーーーッ!
ヤバい! 『PB』は"ぴんくバニー"のライターだ!
どどどどうしよう……

「あ、あれはゲームセンター『プレイバック』のライターだよ」

私は出まかせの名前を出して何とかごまかした。

「あら、そうだったの?
私はてっきり『ぴんくバニー』か何かかと思ったわ」

――ビクーーッ!

「あ、あれは断じてプレイバックのライターだ!」

「ふぅ〜ん、そういう風に強く否定するところがやっぱり怪しいわね」

「違う、違う、違う! あれはプレイバックのライターだ!」

「…………そぉお?」

――ヤバい、この展開は自分で墓穴を掘ってしまったか……

急にテンションを下げた妻は溜め息混じりに呟いた。

「はぁ…… もぅいいわ、今日のところはそういう事にしておくわ……
又今度日を改めてじっくり聞く事にするわね」

そう言ってキッチンの方に戻って行った。


こうして私は疑惑を抱かせたまま一人バスルームに入って行くのだった。












……やっぱり微妙なオチです(笑)




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