夜のサスペンス


□夕闇のサスペンス
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TAXI STOP







都内から少し離れた、緑が数多く残る閑静な高級住宅地。

私は、そこで今日最後の客を降ろした。

今の時刻は、午前一時を過ぎたところだった。

「さてと、今日の業務はこれで終わりだな」

私は、車をUターンさせて都内某タクシー会社まで戻る事にした。

しかし、ここからこのまま来た道を戻ったのでは、かなりの遠回りになる事に私は、気が付いた。

だが、遠回りしなくても戻れるルートが一つあった。


……それは
例の森を抜けるルートだ。

"例の森"と表現したのは言うまでもなく
タクシーの運転手仲間では"アレが出る"と噂になっている所だった。

私は、その様な事は信じないタチだったのと、今日は早く帰りたい事もあってか、迷うことなく例の森を抜けるルートを選んだ。


暫くして、車は例の森に差し掛かった。

フロントガラスから見える風景は、正に暗闇そのものだった。

街灯は疎らに設置してはあったが、周りの木の枝に覆われていて近付かないと確認できない有様である。

前方を照らすハイビームのヘッドライトの明かりだけがそこに路面がある事を証明している。

もしも、ここでヘッドライトを消せば、車はたちまち闇の世界に吸い込まれてしまいそうだ。

周囲を見渡すと確かに、噂通り何かが出てもおかしくない雰囲気だった。

これが、昼間なら緑に囲まれた良いドライブコースなんだろうなぁ……
などと思いながら私は車を走らせた。


――その時
前方のバス停に人影が見えた。

「こんな時間に誰だろう?
……ま、まさか!?」


車が近付くにつれ、それは間違いなく人間だとわかった。

その人はお婆さんだということもバス停の照明で確認できた。

そして、そのお婆さんは右手を高く上げていた。

私は車を、そのお婆さんの前で停車させた。

どうやら足はある様だった

「お客さんどちらまで?」

「神守神社までお願いしますじゃ」

「神守神社ですか?」

「そうじゃ!」

「ですが、お客さん
こんな時間に行かれても今は、誰も居ないと思いますが……」

「いいんじゃよ
ワシは今行きたいんじゃ」

「……そうですか、わかりました」

「…………」


お婆さんは何も言わずに乗車した。


神守神社はちょうど進行方向にある。

私は不思議に思いながらもそのお婆さんを送る事になった。

走行中にルームミラーで後部座席を確認した。

お婆さんは、シートの上に正座で座って、持っていた水筒のお茶を飲んでいた。

私は、取り敢えず安心した

もしかしたら、乗せた筈の客が居なくなっていて、シートがぐっしょりと濡れていた……
なんて、ベタな話を想像してしまったからだ。

そして、一言二言話を交わしたが特に怪しいところはなかった。



やがて、目的地が見えてきた時
前方のヘッドライトに一匹の黒猫が飛び込んできた!

私は、咄嗟に急ブレーキを踏んだ!


前方を照らすヘッドライトの明かりには路面だけが浮かび上がっていた。


どうやら猫は無事だったらしく、どこかへ逃げて行った様だ。

「……ふぅ!
危なかったですね
お客さん大丈夫ですか?」

私は振り向いて後ろを見た

……居ない!?
お婆さんの姿がなかった。

「ま、まさか?」

私は後部座席を見た。
シートが、ぐっしょりと濡れていた。

「う、うそだろ!
こんな、ベタな展開……
ありえないよ!」

やっぱり、ここには出るんだ……

そう思った時、声が聞こえた。

「あう〜〜〜
お、お茶をこぼしてしもうたわい!」

私は、身を乗り出してその声を確認した。

すると、お婆さんは今の急ブレーキでシートの間に挟まっているだけだった。













あるタクシー運転手が遭遇した恐怖体験……!?

あなたは信じますか?




TAXI STOP/END
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