夜のサスペンス


□夕闇のサスペンス
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触ってもいいですか?









 ――今日もあの子はベンチに座っている。







駅前から少し離れた商店街の中に小さな公園がある。
その公園には花壇があり、周囲には幾つかの白いベンチが設置してある。
そして、その一つにその子はいつも座っているのだ。

本を読んでいるでもなく、音楽を聴いている訳でもなく
ただ独りベンチに座り、商店街の中を歩いている人たちを眺めているのだ。


一体どこの子なんだろう?
何て名前なんだろう?
やっぱりこの近くに住んでいるのだろうか?






僕がその子に気付いたのはほんの一週間程前の事である。

その日は朝寝坊をしてしまい、いつもの通学ルートをショートカットするために公園の脇を突っ切っていた時に偶然目に飛び込んできたのだ。

少し距離はあったが、僕は思った……

「か、可愛い!」

そう、その子はとても可愛い子だったのだ。
もう抱き締めて持って帰りたい程可愛いのだ!

僕はその日から通学ルートを変更したのは言うまでもない。

そして、毎日その子の事を遠くから眺める日々が続いている。

どちらかと言えば内向的な僕はなかなか声も掛けられずにいるのだ。

日を追う毎にモヤモヤした気持ちが溜まっていくのがわかる……


いつ見ても物静かにベンチに座る姿は僕の心を癒してくれる……

あぁ、声を掛けたい……

身体に触りたい……

頭なでなでしたい……


想う気持ちがとめどなく大きくなっていく……






そして……


僕は一大決心をした。



休日の朝、僕はあの子がいる公園に足を運んだ。

毎日遠くから見ていた花壇が目の前に広がった。

今日もいつもの様にベンチに座って商店街を行き交う人々を眺めていた。

僕はその子がいつも座っている白いベンチに背後から近づいて行った。


――あぁ、その後ろ姿も可愛い!


僕はそっと手をのばした。

白いベンチに座ったその子は僕の存在に気付いたのか、後ろに振り向いた。

僕は咄嗟に想っていた事を口に出していた。

「ぁ! さ、触ってもいいですか?」

その子は特に嫌がる様子もないので僕はそっと身体に手を触れた。

――あぁっ! 触ったぞ、触ったぞ〜っ!

とても柔らかい感触が指先から伝わってくる。

僕はその子の隣に腰掛けて頭もなでなでしてみた。


そして、その子は声をあげた。

「にゃ〜〜!」

「ぅう〜ん、やっぱり可愛い!
お前、どこの子なんだ? 人懐っこいところを見るとやっぱりどこかの飼い猫なんだろうなぁ……」

「ぅにゃ〜〜ん! ゴロゴロゴロゴロ…………」









触ってもいいですか?
- END -
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