夜のサスペンス


□夕闇のサスペンス
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オレオレ!









ある日の夜……

応接間に置いてある電話が鳴った。


間もなく、この家に一人暮らしのお婆さんが電話機の所にやって来た。

「ハイ、ハイ! こんな時間に誰ぢゃな」

電話機の液晶ディスプレーには"公衆電話"の表示。

「はて、公衆電話とな? 一体誰かのう」

お婆さんは不思議に思いながらも受話器を取った。

「もしもし……」

『俺だよ! 俺、俺!』

「はて、どちら様ですかのう?」

『だから、俺だよ、俺!』

「おぉ、孫のオレか!」

『そ、そーだよ! 孫の俺だよ…… ん!? 俺なんて名前の奴いねーだろ!』

「それもそうぢゃな ……もしかして、息子の太郎かのう」

『そ、そーだよ! 息子の太郎だよ!』

「おぉ、そうか! 息子の太郎か! ……しかし、おかしいのう」

『な、何だよ、何がおかしいんだよ!』

「息子の太郎は去年の夏に交通事故で亡くなっているんぢゃがのう」

『う゚……』

「そうか! もしかして、孫の田吾作かえ?」

『そ、そーだよ! 孫の田吾作だよ!』

「その田吾作がこんな時間に何の用ぢゃな?」

『そう! そこが重要なんだよ!』

「そうか、重要か! もしかして何かトラブルにでも巻き込まれて現金が必要とか言うんぢゃ無かろうな」

『婆ちゃんすげーな! よくわかったな! ……実はそうなんだよ!』

「お前も大変ぢゃな」

『そ、そーなんだよ、超ヤバいんだよ! 俺、運転中にちょっと接触しちゃってさぁ
相手の車がヤバい人の車だったんだよ!』

「ほぅ、ヤッちゃんの車だったと?」

『そ、そーなんだよ! 修理代300万払わないと、俺ひどい目にあわされるよ!』

「そうか、それは大変ぢゃのぅ ……しかし、おかしいのう」

『え!? 何が?』

「孫の田吾作はまだ小学生でのぅ、車なんて到底運転出来る筈がないんぢゃがのう」

『ぅ゚……』

「ふぉっふぉっふぉ! ところで、これは振り込め詐欺とかいうものかのう」

『や、やべっ……』

「ふぉっふぉっふぉ、実はこの会話は全て録音中ぢゃ」

『な、なにぃ』

「しかも、逆探知も完了済ぢゃ!」

『ぅぐっ……』

「もう今さら逃走は不可能ぢゃぞ! お前の電話ボックスの周りを見るがよい」

『……ん!? うわっ、な、何だこいつらは!』

「どうぢゃ、黒服の連中が居ったぢゃろ」

『ど、どうしようってんだよー!』

「ふぉっふぉっふぉ、今警察に通報すれば一発ぢゃのう」

『わ、わかったよ、俺が悪かったよ! だから通報だけは止めてくれよ!』

「そうか、それなら黙っていてやってもよいが……」

『そ、そりゃ助かったよ!』

「口止め料として300万戴こうかのう」

『な、なにぃ!』

「捕まって罪人のレッテル貼られる事を思えば安いとは思わぬか?」

『ぅ、うぐぐ……』

「交渉成立ぢゃな」

『う、うわっ! 何だよ、何するんだよー!』


受話器からは何やら騒々しい音が聞こえた後、電話は切れた。


そして、応接間にはお婆さんの不敵な笑い声が響き渡った。


「ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁ……」









オレオレ!/END
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