夜のサスペンス


From-D
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Introduction









──そこには長い坂道があった。

 その先には一人の男が立っている。
その男は夕日を背にして坂の上から一人の女を見つめていた。




「待って、私を置いて行かないで!」

 女は男に向かって叫んだ。
しかし、男は無言のまま女を見下ろしているだけだった。

「どうして!? どうして黙っているの?
ねぇ、何か言ってよ! どうして何も言ってくれないの?」


 男は暫く黙ったまま女を見つめていたが、ようやくその口を開いた。

「……サヨナラ」

「ぇ!? サヨナラって、どういう事なの?」

 女は男に問い掛けた。
すると男は一呼吸置いて口を開いた。




「だって、君はもうそれ以上この坂を登って来られないから」

「ぇ!? な、何を言っているの? 貴方の言っている意味が解らないよ!
坂を登れないってどういう事なの?
すぐに追い着くから待っていて!」

 女は懸命に男に追い着こうとしたが、何故かその場から先に進む事が出来ない。

「……ぇ、どうして? どうして進めないの?」


「だから言ったじゃないか、君は登って来られないって……」

「それじゃあ、助けてよ! そんな所に立ってないで私を助けてよ!」

 女は手を伸ばして男に助けを求めた。
しかし、男はそれに応える事なくゆっくりと女に背を向けながら言った。

「ゴメンよ、今は君より好きな女性(ひと)が居るんだ……」

「……ぇ? そ、そんな!
いきなりそんな事言わないでよ!」

 男は背を向けたまま言葉を続ける。

「大丈夫だよ、君は十分に魅力的だから…… 彼氏なんてすぐにできるよ」

「そ、そんな勝手な事言わないでよ!
残された私はどうすればいいの?」


 男は既に歩き出していた。
今の言葉が聞こえていたのか、いなかったのか……
最後の言葉を告げる。

「サヨナラ、もう会う事はないだろう……
じゃあね、バイバイ!」


 そう言い残して男は夕闇の中に消えて行った。

 女はその場に座り込んだまま男が歩き去った方向をただぼんやり眺めていた……


 周囲にはすっかり夜の闇が訪れていた。
そして、女の心情を象徴するかの様に重く冷たい闇が全ての光を覆い隠す様に全てを包み込んでいった。









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