夜のサスペンス


From-D
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Hospital









光一が目覚めた所は微かな消毒液と薬品の匂いが漂う病室の中だった。




「こ、ここは? ……そうか、俺は昨日の夜事故ってしまったんだ」

昨日の夜、事故に遭った時の状況が断片的に頭の中を駆け巡った。

光一はふと周りを見渡すと、ベッドの側には光一の両親と担当医と思われる人物。
その隣には看護師の姿も見える。

視線をベッドに向けると、そこに横たわっている人物は右足が包帯でぐるぐる巻きになった光一本人だった!

「ぇ!? 俺が寝ている?
な、なんで俺がベッドで寝ているんだ?
……そ、それじゃあ今ここにいる俺は誰だ?」

光一は何がどうなっているのかわからなかったが、冷静に今自分が置かれている状況を考えてみた。

「俺が、俺自身を見ている? ま、まさかこれって……
幽体離脱!? し、しかも宙に浮いてるし!」

光一は両親の側に近寄って行き、話し掛けてみた。

「母さん、そんな悲しそうな顔しないでくれよ!
俺だよ! 光一だよー!
親父、俺の姿が見えないのかよー!」

いくら話し掛けても両親には全く聞こえていないのか、担当医と思われる人物と話しをしている。
しかしその話し声は聞こえているのに何かフィルターを通した様な感じで何を話しているのかはっきりと聞き取れない。

光一は自分の存在を示そうと両親の身体に触れたつもりだったが、その手は両親の身体に触れる事なくスルリとすり抜けてしまった。

「うわ、すり抜けた!
なっ、なんで触れないんだよぉー!
やっぱり俺はあの事故で死んで、幽霊になってしまったのか?」


するとその時、背後からいきなり声が聞こえた。

「あなたはまだ死んでいないわ」

「えっ?」

一瞬驚いて声の聞こえた方に振り向いた。

その方向には病室のドアがあり、その前にモノトーンの水玉模様のパジャマ(患者衣)を着た高校生位の少女がこちらをじっと見つめて立っている。

「き、君は? ……俺の姿が見えるのか?」

「……えぇ、見えるわ」

その少女は無表情のまま答えた。

ちょうどその時に話しが済んだらしく、担当医と思われる人物と看護師がこの病室を出て行こうとしていた。

しかし、その少女はドアの前に立ったまま、それを避ける様子はない。

担当医と看護師はそのまま少女の体をすり抜けてしまった。

「うわっ! お、おい体をすり抜けたぞ!」

「別に驚く事はないわ」

少女は全く驚いた様子もなく無表情のまま答えた。

「……もしかして、君は、ゆ、幽霊なのか?」

「……そうね ……そうかも知れない」

相変わらず無表情のままで答える。

「……って事は、俺もやっぱり幽霊になってしまったのか?」

「あなたは違うわ」

「違うってどうしてだよ? こうして魂だけになってしまったんだから、君と同じだろ?」

「……でも、あなたは私とは違うわ」

少女は少し俯きながら答えた。

「一体何が違うって言うんだよ!」

「だって…… あなたには、まだ生きていたいって思う意志があるもの……」

少女は俯いたまま寂しそうに答えた。

「そんなの当たり前だろ! 人間なら生きていたいって思うのは当然じゃないか!
マァ、死にたいって思っている奴なら話は別かも知れないけどな」

この時光一は、一瞬はっと思って少女の様子を伺った。
その少女は黙ったまま俯いていた。

「まさか、君は……」

「そうよ、私は生きる事を止めたのよ!
私の目の前にあるのは凍りついた暗闇だけ……」

そう言ってその少女はそのまま両手で顔を覆って、その場にペタリと座り込んでしまった。

光一はどう対応したら良いのかわからなかったが、そっと少女の体に触れてみた。

その手には触れた感触があった。

少女は一瞬ビクッとしたが、ゆっくりとその顔を上げる。
光一は優しくその少女に話し掛けてみた。

「なぁ、どういう事情があるのかは知らないけど、死のうなんて考えは止めにしないか?」

少女は何も言わずに又俯いてしまった。

光一は、こんな在り来りな言葉しか掛けられない自分にもどかしさを覚えた。

しかし今はこんな言葉しか思い付かなかった。



光一は、今の自分が置かれている普通ではない状況の不安感と、目の前にいる生きる事を止めようとしている少女にどう対応して良いのかわからなかった。








【続く】
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