夜のサスペンス


From-D
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1st day







沈黙の時間が流れていった。

「うーん、一体どうしたらいいのだろうか?」

光一は俯いて黙ったままの少女を暫くの間眺めていた。
周りの空気がどんどん重苦しいものになっていく様な感じがしていた。
まるで、重い鉄の壁が四方から迫って来る様な錯覚さえしてきた。

光一は再びその少女に話し掛けてみた。

「なぁ、いったい何があったんだ?
こんな俺でよければ話してみないか?」

少女は黙ったまま俯いて何も答えない……


「あっ、悪かったな、まだお互いの名前も知らないのに踏み入った事聞いてしまって…… 俺は……」

「光一さんでしょ!
坂上光一 ……標札に書いてあったわ」

光一が自分の名前を言う前にその少女は光一の名前を口にしていた。

「あ、ははは…… そうだな、病室の標札を見りゃわかるよな」

そして、少女は続けて自分の名前を名乗る。

「……私は、町田優美(まちだゆみ)」

「そうか、君は優美ちゃんていうのか……」

この時、光一はその名前に何となく聞き覚えがある様な無い様な妙な感覚を覚えた。
しかし"ゆみ"という名前の知り合いは居ないし、聞き覚えも無かった事もあって特に深くは考えなかった。

そんな光一の顔を見た優美が『何なの!?』といった様な表情をする。

「あ、いやべつに…… ただ何となく可愛い名前だなと思っただけだよ」

「………………」

優美は又俯いて黙ってしまった。

「ところで、さっきの話だけど…… あ いゃ、話したくないのならべつに話さなくてもいいんだ」

優美は俯いたまま、何も答えなかった。
光一も次に何を話して良いのかわからずに言葉に詰まってしまった。

そして、又気まずい雰囲気が周りの空気を再び重くしていく。

お互いに押し黙ったままの時間が過ぎて行った。




暫くして、光一は何か思い立った様に優美に話し掛ける。

「なぁ、今から俺とどこかに行かないか?」

「えっ!?」

優美は一瞬驚いた様な顔をしていたが、光一は半ば強引に手を掴んで座り込んでいた優美を立たせた。

「今から外に行くんだ、俺とデートするんだ!」

「えっ!? でも私……」

「問答無用だ、俺は今そうしたい気分なんだ!」

優美は光一の手を振りほどこうとしたが、光一はその手を離さなかった。

「よく考えてみろよ!
幽体離脱なんて体験、滅多に出来るもんじゃないだろう?
この際だから今のこの状態を楽しんでみようぜ!」

優美は少し呆れた顔をしていたが、もう抵抗はしていなかった。

光一はそのまま優美の手を引いて病室を出ようと、ドアノブに手を掛けた。
しかし、その手は掴む事ができずにすり抜けてしまう。

「うわ、ドアノブに触れない!」

優美は焦っている光一の目の前でスルーッとドアをすり抜けて出て行った。

「あ、そうだった! 俺達って"幽霊"だったんだよな、忘れてたよ」

そして光一も優美の後を追う様に病室のドアをすり抜けて行った。

優美は相変わらず暗い表情をしていたが、光一はそんな事はお構いなしにそのまま手を引いて廊下を抜けて外に連れ出して行った。






【続く】
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