夜のサスペンス


□SPECIAL
4ページ/6ページ

《Xmas SP 2010》
** WHITE☆NIGHT **







 ある年の12月24日……



今日は全国的に『イヴ』と呼ばれる日だ。
商店街の店先には綺麗な電飾で彩られたツリーなどが飾られる季節。
又、通りに等間隔に植えられた並木にも色とりどりに電飾が施されて景観を美しく演出している。

今夜は少し冷え込むのか、通りを行き交う人々は寄り添って足早に家路を急ぐ人やコートの襟を立てて肩を竦めて歩く人の姿などが目に入る。

今年のイヴは休日の前という事なのか、例年になく人が多い気がする。

そんなクリスマス一色のとあるスイーツショップの店先に飾ってある大きなツリーの陰から私は通りをぼんやりと眺めていた……


『……静かな聖夜だわ
でも、通りを歩く人達は何だか忙しないわね』

そんな中、私は独り呟きながら通りを眺めていた。

目の前を男女カップルが腕を組み、楽しそうに会話しながら通り過ぎて行った。

『ふぅん、楽しそうね……
今夜は二人だけの時間を過ごすのかしら?
……それとも、今夜に告白でもするのかしらね?
それにしても、カップル多いわね!
本来はイエスキリストの降誕を祝う祭なのに、一体いつから愛の告白の日になっちゃったのかしら……』

そう思いながら私は慌ただしく目の前を通り過ぎて行く人の群れを眺めていた。
私に気付く人は誰ひとり居ない。



「毎度ありがとうございました! 楽しい聖夜を!」

「どうもありがとう!」


すぐ横の自動ドアが開いて親子が出て来た。
その手には店の名前が入った大きな手提げ袋が握られていた。


『ふぅん、あの袋はきっとクリスマスケーキね
今夜は家族で楽しい聖夜を過ごすのかしらね』


私は夜空を見上げた……
夜空には雲の狭間から星の瞬きが見え隠れしていた。

その時、私は何となく小さな視線を感じた。
その視線の主を捜そうと辺りを見渡した。
すると、少し離れた所で母親に連れられた小さな女の子がこちらをじっと見つめている。


『……あの子って、私の事見ているの?
……まさかね、きっとこの大きなツリーの電飾でも見ているんだわ』

そんな事を思いながら私はその女の子に向かって大きく手を振って見せた。

すると、その女の子は驚いた表情をしていたが、すぐにこちらへ歩いて来た。

『ぇ、ウソ!? ホントに私の姿が見えているの?』

女の子は間もなく私の目の前までやって来た。
そして、不思議そうな表情で私を見ている。
その大きくて綺麗な瞳には私の姿が映っている。

『ね、ねぇ貴女には私の姿が見えるのかしら?』

私はその女の子に話し掛けてみた。
すると、その瞳を更に輝かせて話し掛けてきた。

「ぅん! ユキみえるよ! でも、どーして?」

『ふぅん、貴女はユキちゃんて名前なんだ』

「ぅん! そーだよ!」

『そっかぁ、でも見付かったゃったね!』

「ぇ? ……かくれんぼしてたの?」

『別にそういう事でもないんだけどね』

「ふぅん、へんなの!」

『エヘヘヘ……』

私は自然に笑っていた。
ユキちゃんも同じ様にクスクス笑っていた。

そして、今度はユキちゃんが質問してきた。

「ねぇ、どうしてこんなところにいるの?
こびとさんのくにからきたの?」

『ま、まぁ確かに小びとには違いないけれど、雪の妖精ってところかしら!』

「ゆきのようせいさん?
おともだちはいないの?」

『お友達? ……私の仲間は他の街に行っているわ』

「それじゃぁいまはひとりぼっちなの?」

ユキちゃんの表情が少し寂しそうになった。

『大丈夫よ、今はこうして私を見付けてくれたお友達が居るから』

「ぅん、ユキおともだち!」

ユキちゃんは又元の表情に戻った。

その時、ユキちゃんの隣には彼女の母親が来ていた。

「友紀ったらこんな所で何をしているの?」

「ようせいさんとおはなししてたの!」

「あら、妖精さんに会ったのね!」

「ぅん! ほら、ここにいるんだよ!」

母親はユキちゃんの指差す方を見ていたが、どうやら彼女には私の姿は見えていないらしい。

「もしかしてそこに妖精さんが居るの?」

「ぅん! そーだよ!」

「でも、残念だけどママにはもう見えないのよ」

「えぇーっ、ママにはみえないの? どーしてみえないの?」

ユキちゃんはちょっと残念そうな表情でママに問い掛けた。

「それはね、ママの夢が叶ったからよ」

「ゆめがかなうとみえなくなっちゃうの?」

「そうよ、でも友紀には見えるって事はあなたが夢を持っているからなのよ」

「ぅん! ユキゆめいっぱいあるよ!」


私はそんな親子の会話を暖かい気持ちで聞いていた。
もしかしたら、この子の母親も小さい頃に見ていたのかも知れない……


「……でも、ゆめがかなってようせいさんがみえなくなっちゃうのさみしいょ」

ユキちゃんは少し寂しそうな表情で私を見ている。

『大丈夫よ! たとえ姿が見えなくなっても、私は貴女の事はずっと見ているから!』

「ぅん!」

ユキちゃんは元気よく返事して、毛糸の手袋をした手を差し出した。
私はふわりとその手に飛び乗った。
そして、その手を顔の前に持っていく。

「おにんぎょうさんみたい」

私はまじまじと見つめられて、ちょっと恥ずかしかった。
ユキちゃんのその大きな瞳には周囲の電飾の光と私の姿が映り、キラキラ輝いていた。

「……ユキのこと、わすれないでね」

『もちろんだよ!』


すぐにお別れしなきゃいけない事がわかっているのか、ユキちゃんの表情が少し寂しそうに見えた。
私は頬にキスして、ふわりと飛び上がり、ツリーの周りをくるくると飛んで見せた。


母親がユキちゃんに話し掛けていた。

「それじゃぁ、そろそろお家帰らないとね。
今日はパパがクリスマスケーキと友紀のプレゼントを買って来てくれる約束だったでしょ」

「ぅん!」


ユキちゃんは私の方を見上げて大きく手を振った。

「ようせいさん、バイバ〜イ!」

私もそれに応える様に大きく手を振った。


その時、母親も私の方を見て優しく微笑みながら小さく手を振っていた。
そして間もなく人混みの中に消えていった。

ーーもしかしたら、この時は母親にも私の姿が見えたのかも知れない……








 ――深夜零時

日付がかわる時間……

眠らない街には光が溢れていた。

生命の無い電気の光……



街には空から白い光が静かに降り注いでいた。



その中に一際強く輝く光が舞っているのに気付く人はいなかった……







WHITE NIGHT/END
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ