森のサスペンス

□森の奥の一軒家
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 ――五月


 世間では、俗に言う大型連休というものに突入していた。

 そして、ここにその連休を利用して父親の実家にあそびに来ている家族があった。

父、母とその子供たちの四人構成の家族である。


 此処は周囲が山々に囲まれた大自然の中にある小さな村だった。
村から少し離れた所には谷川があり、そこでは釣も楽しめるらしい。

 そして、今日は天気が良いこともあって、父の釣に家族みんなで付き合う事になった。
谷川までは未舗装ではあるが、一応車が通れる位の道がある。

 この日は朝早くに支度をして父の運転するRV車に乗り込んで出かける事になった。
子供たちは初めて見る大自然の風景に大はしゃぎしている。




【ともゆき】
「ねぇ、おとうさん! きょうのばんごはんはおさかないっぱいたべれるの?」

【隆行】(父)
「あぁ、そうだよ、今日は期待していいぞ!」

【ともゆき】
「ねぇ、おねえちゃん! きょうは、おとうさんがおさかないっぱいつってくれるって!」

【あやか】
「そ、そーね…… でも、あたし魚料理はちょっと好きじゃないかも」

【隆行】
「まあ、そう言うなって! とれたて新鮮なヤツを食えば考えが変わるかも知れないぞ!」

【ともゆき】
「そーだよ、おねえちゃんすききらいはだめだよ!」

【あやか】
「もぅ! ともゆきにだけは言われたくないよぉ!
いちおうどりょくはしてみるけど……」

【静香】(母)
「ふふ…… そぉね、その時は頑張ってね!
綾香は、お姉ちゃんなんだから」

【あやか】
「もぅ! そればっかり」

【隆行】
「はははは!」

【静香】
「ホント、今日は期待しているわよ!」

【隆行】
「おぅ! まかせとけ!!
おっと! 忘れるところだった!」

 そう言うと隆行はおもむろに車を路肩に止めた。

【静香】
「どうしたの? あなた」

【隆行】
「あぁ、ちょっとな!
どうだ、お前たちも寄って行くか?」

 隆行が車を降りて指さした方には朱色に塗られた鳥居があり、その先には小さな社が建っていた。

【静香】
「ここは? ……神社!?」

【隆行】
「まぁ、そんなものかな
"御稲荷さん"だよ、この辺じゃ土地の守り神として祀っているらしい」

【静香】
「へぇ〜 そうなんだぁ」

【ともゆき】
「おいなりさん?」

【あやか】
「キツネの事?」

【隆行】
「あぁ、そうだよ! 狐のことだよ!
お前たちも狐には騙されない様にしないとな」

【ともゆき】
「えぇ〜っ! きつねさんて、ひとをだますの?」

【隆行】
「むかし話の中でな!
ほら! お前たちも、お参りして行くぞ!」


 その小さな社の中には陶器で作られた狐を象った置物が二体、祭壇の上に祀られていた。

 隆行はポケットから小さな紙の包を取り出して、それをお供えした。

【静香】
「あっ! いつの間にそんな物を……」

【ともゆき】
「なにを、あげたの?」

【隆行】
「狐の大好きな物と言えば、これしかないだろ?」

【静香】
「油揚げ!? ……あっ!
今日のお昼用の稲荷寿司の油揚げが何か足らないと思っていたら、あなたが犯人だったのね」

【あやか】
「今日のお昼ご飯は、いなりずしなんだぁ!」

【ともゆき】
「ぼく、いなりずしだいすき!」

【あやか】
「えぇ〜っ! ともゆきってキツネだったんだ!」

【ともゆき】
「ぁぅ〜〜 ぼく、きつねさんじゃないよぅ!」

【あやか】
「ともゆき、安心していいわよ! あたしも、いなりずし好きだから」

【ともゆき】
「えぇっ? おねえちゃんもきつねさんなんだぁ!」

【あやか】
「もぉ! それと、これとはべつなの!」

【静香】
「ぅふふふ…… 綾香と友行はキツネさんの姉弟ね」

【あやか】
「もぉ! お母さんまで!」

【隆行】
「それじゃぁ! お前たち、そろそろ行くぞ!」

【あやか】
「あっ! まってよぉ!
あたし、まだおまいり済んでないよぉ!」

【ともゆき】
「ぼくも、まだだよぅ!」



 間もなく、お参りを済ませた家族四人は再び車に乗り込み、目的地に向かって出発した。





 そして……

そうこうしている内に車は目的地に到着した。






〜続く〜
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