魔界のパーティー

DEVIL'S PARTY

Midnight visitor




ACT.0
満月の夜に









その日は満月のとても美しい夜だった……









此処は都内から少し離れた小高い丘の中腹にある8階建てのマンション。
その6階に一哉(カズヤ)の部屋があった。

午前2時、一哉の部屋では時計のアラームが鳴っている……

ベッドで眠っていた一哉は寝ぽけながらも枕元に置いてある時計に手を伸ばしてアラームを止めた。

「ん、もう起きる時間か? って、まだ2時かよ!
しかし、何でこんな時間に?」

一哉は枕元のデジタル時計を見て独り言の様に呟いた。

ふと窓の方に目を移すとレースのカーテン越しに淡い月明かりが差し込んでいる。
その月明かりに照らされたカーテンが何故かゆらゆらと風に揺れていた。


「窓が開いてるのか? 確か寝る前に閉めたはずだけど……」

不思議に思いながらもベッドから降りて照明の点いていない薄暗い室内を窓際まで移動する。

カーテンを開けてふと窓の外を見ると、月明かりの反射でうっすらと銀色に照らされた家屋の屋根や公園の木々などが目に入ってきた。

一哉は何となくその景色をぼんやりと眺めていた。

するとその時、背後に何者かの気配を感じた。


「こんばんは!」

いきなり挨拶されて驚く一哉。
振り向くと、そこにはフード付きの黒いワンピースを着た小柄な少女が立っていた。

「うわっ! なな、何だお前は!?」

「こんばんは、カズヤ様」

その少女は一哉の名前を呼んで再度挨拶した。


「こ、これはご丁寧にどうも…… って、違うだろ!
おい、誰だお前は? 大体どうして俺の名前を知っているんだよ!」

「あっ! ご、ごめんなさい! 私、決して怪しい者ではありません」

「怪しい者じゃないって? こんな夜中に男の部屋に勝手に忍び込んで来る奴なんて思いっ切り怪しいと思うぞ!」

「ほ、本当に怪しい者ではないんですぅ! ……実は私、魔女なんです!
カズヤ様にお会いするためにやって参りました」

自ら魔女と名乗るその少女は懸命に説明するも、一哉にはそれが信じられる訳もなかった。

「ほぇ? ……ま、魔女? ……俺に会うため?
ていうか、お前の言っている事訳わかんねーよ!」

「ほ、本当に魔女なんです、信じて下さい!」

そう言って手に持っている自分の背丈ほどありそうなホウキを一哉に見せる。


「な、何だそれは?」

「ホウキですよ!」

「ぃゃ、それは見ればわかるが……」

「魔女といえば、やっぱりホウキでしょ?」

「ぃゃ、そういう問題じゃなくて……」

「カズヤさまぁ!」

「気安く名前を呼ぶなよ! 大体俺はお前の事なんて何も知らねーし!」

「私は貴方の事知ってますよ、魔女ですから!」

「理由になってねーよ! ……ていうか、そもそもお前は一体どこから入って来たんだよ!」

「それなら、そこの窓からですよ」

言いながら月明かりの差し込む窓を指差して答えた。


「窓からねぇ…… こいつは不法侵入だな ……っておい、ココは6階だぞ! 一体どうやって?」

「もちろん、このホウキに乗って飛んで参りました」

再び手に持ったホウキを見せる。


「ふぅーん、魔女がこんな時間に? ホウキに乗って? 一体何のために?」

「そ、それは……
カズヤ様のお部屋のお掃除に……」

「……ほぇ?」

「……ぁアワワ、違う、違うんですぅ! 本当はカズヤ様に招待状をお届けする為に来たんですぅ!」

「俺に!? 招待状?」

するとその魔女は懐から怪しげな黒い封筒を取り出して一哉に手渡す。

「……これは?」

「はい、それが招待状です ……実は、あなたは魔界の王デビルキング様に招かれた者なのです」

「ま、魔界の王だって!?
ていうかお前、実は俺をからかっているんじゃないのか?」

「そそ、そんな…… からかっているだなんて、滅相もございません!」

魔女はあたふたしながら両手の平を左右に振りながらその真意を懸命に訴えた。

「……わかった、百歩譲って魔界王の事はヨシとしよう! ……で、何で俺がその魔界王とやらに招待されなきゃならないんだ?」

「ぁ、は、はい、その辺の詳しい事は魔界に来られてから…… という事で……」

申し訳なさそうに言葉を濁す魔女。

「訳わかんねーよ!」

「と、とにかくカズヤ様! 招待状は確かにお渡ししました。信じるかどうかはあなた次第です!
詳しい事はその招待状に書かれていますから、読んで頂けるととても嬉しいですぅ」

そう言ってニコニコと笑顔で答えた。
そしてそのまま窓の方に移動して持っているホウキにちょこんと乗った。

「……それではカズヤ様、ごきげんよう!」

「あっ! おいちょっと待てよ、ここはマンションの6階だっ…………」

言っている間にその魔女は窓からひょいっと飛び出して行った。

「うわっ、マジかよ! 本当に窓から飛び出しやがった!」

とっさに窓に駆け寄り、外を確認する。
しかしもうあの魔女の姿はどこにもなく、月明かりが差し込む窓のカーテンがゆらゆらと揺れているだけだった。


「……ほ、本当に飛んで行ってしまったのか!? まさか、あれって本物の魔女だったのか?」


一哉はキツネに撮まれた様な面持ちで開いていた窓を閉めて自分のベッドに戻り、ベッドサイドの明かりを点けた。

一哉の手には魔女と名乗る少女から手渡された怪しげな黒い封筒があった。
早速その黒い封筒を開けて中の物を取り出す。

中には黒いメッセージカードが入っていた。

「ん!? カードの様な物が入っているぞ ……ていうか、真っ黒!
あ、本当に招待状って書いてある」





‡ 招 待 状 ‡


時下、ますますご健勝の事お慶び申しあげます。

この度、モンスターキャッスルにて恒例の百年に一度の同窓会を開催致します。
つきましては、魔界の者の末裔達にも参加を希望するものであり、是非ともこれに同意される事をお願い申しあげます。

後日、使いの者がお迎えに参上致しますので、その節にはどうぞよろしくお願い申しあげます。


敬具


モンスターキャッスル城主 Devil King







「訳わかんねーよ! そもそも末裔って何だよ!
やはり、これは誰かの悪戯か? そうじゃなけりゃ、これは夢だな。きっと俺は夢を見ているに違いないな」

そう考えるも一哉はやぱり半信半疑の状態だった。
そして時計のアラームをセットし直してから、ベッドサイドの明かりを消してそのまま眠りについた。









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