魔界のパーティー
□DEVIL'S PARTY
Midnight visitor
- ――翌朝
一哉は昨夜の出来事が一体何だったのか、疑問を抱きながらもいつもの様に高校に行った。
下校後には知り合いの経営する喫茶店でバイトをする。
そしてその日の夜、何事もなくバイト先から帰宅して……
いつもの様に母の作る夕ごはんを済ませ……
いつもの様に入浴も済ませ……
いつもの様にテレビを見て、パソコンのメールを確認してから就寝……
それがいつものライフパターンだ。
……しかし、今は一つだけいつもと違う事がある。
それは昨夜に"魔女"と名乗る少女から手渡された例の"招待状"だった。
現実に"ソレ"は一哉の目の前にある。
明日は土曜でバイトも休み。
一哉はビーズクッションにもたれ掛けて深夜番組を観ながら寛いでいた。
ふと窓の方に目が行き、何となく昨夜の事を思い出す。
一哉は目の前のガラステーブルの上に無造作に置かれた黒い封筒を手に取り、まじまじと眺めた。
「う〜ん、やっぱり有るんだよなぁ…… もしかしたら昨夜の事は実は夢だったのかな? なんて思ったんだけどなぁ」
- 何気なしに窓を見ながら溜息まじりに呟いた。
「今夜も満月か…… そろそろ寝るか」
- そう言うと、手にしていた黒い封筒をテーブルの上に置いた。
すると、その封筒は一瞬光った後に空間に吸い込まれる様に消えてしまった。
「なにっ!? 何だ今のは? ……一瞬、消えた様に見えたぞ!」
- 慌ててテーブルの周りを探すも、例の封筒はどこにも無かった。
「ど、どうなっているんだ、やっぱり夢か? ぃゃ、これは夢だ、絶対夢だ〜!」
- 一哉がジタバタとしていると、どこからともなく声が聞こえた。
『夢じゃないですよ〜!』
「な、なにぃ?」
『だから、夢なんかじゃないんですよォ〜!』
「誰だ、どこに居る?」
- 声はすれども姿は見えぬ。
一哉は部屋の中をキョロキョロと見渡した。
しかし、室内には一哉本人以外は誰も居ない様だった。
「何だ、誰も居ないじゃないか、やっぱり気のせいか……」
『気のせいなんかじゃないですよぉ〜!』
- すると、一哉の目の前に突然バスケットボールくらいの大きさの白い球状の物体がすぅ〜っと姿を現した。
「うわっ! なな、何だお前は?」
- 突然の非現実的現象に困惑する一哉。
しかし、そんな事には全く気にもせず普通に挨拶をする謎の物体。
「おこんばんは〜、私は案内おばけと申します!」
「案内おばけ? ……て事は、おばけ? 幽霊? 霊魂? ……未確認生物?」
「まぁ、その様なモノと思って頂いて構いませんよ。……ぁ、でも決して怪しい者ではありませんから」
「充分に怪しいぞ! てゆーか怪し過ぎる!」
「まぁそんな些細な事はいいじゃないですか…… そうそう、言い忘れるトコロでした、私が招待状にあった使いの者です」
「招待状って? あれはさっき消えて無くなったぞ」
「はい、その事でしたらそれでいいのですよ、私が参りましたのでもう必要ありませんから」
「訳わかんねーよ! やっぱりこれは夢だぁ〜〜、夢であってくれぇ〜!」
- その時、一哉の部屋のドアの外から声が聞こえた。
「一哉、こんな時間に一体何を騒いでいるの? あなたの他に誰かそこに居るの!?」
「あ、母さん! な、何でもないよ、これから寝るところだよ!」
「……そぅ、ご近所迷惑になるからあまり騒がない様にね! それじゃあ、おやすみなさい」
- その後、スリッパの足音はしだいに遠くなり、ドアを開閉する音がして静かになった。
そして、深くため息を漏らす一哉。
「それでは、早速参りましょうか?」
「参りましょうって? 一体何処に?」
「モンスターキャッスルに決まっているじゃないですか!」
「モンスターって…… 俺は人間だぞ!」
「何をおっしゃるウサギさん、今宵の貴方は狼男ではないですか!」
「お、狼男ォ!? ……この俺がか?」
「そうです、狼男です! その証拠にほら、貴方の体は全身毛むくじゃら!」
- 一哉は半信半疑で自分の手をまじまじと見る。
……するとその手は銀色の毛で覆われていた。
「……ん!? うわっ! ほ、本当に毛だらけだぁ! な、なんじゃこらぁ〜!」
「猫灰だらけですねェ〜」
「じょ、冗談こいてる場合かよ〜! 一体どーなってんだよ?」
「……お気に召さないですか?」
「当たり前だ! 元に戻せ、すぐ戻せ!」
「そうですかぁ〜、結構イケテると思いますが……」
「全然イケてねーよ!」
「それじゃあ仕方ないですね、元に戻しましょう! ……とても残念ですが」
「やっぱりお前の仕業やったんかい! ……こんな事なら昨日のあの魔女が迎えに来てくれたらよかったのになぁ」
「魔女ですか? 実は、あれは私が変身した姿らしいです」
「な、なにぃ〜!」
- 案内おばけは例の魔女に変身した。
「カズヤ様ぁ〜! やっぱりカズヤ様は魔女がお好きなんですかぁ?」
「ぃゃ、お好きって訳じゃないが…… そ、その〜、まぁ見た目は可愛いと思うが……」
- はっきりしないあやふやな返答をする一哉。
「そ、そんなぁ〜、可愛いだなんて、アンナ嬉しいですぅ!」
「ア、アンナって? お前、名前があったのか?」
「はいっ! 案内おばけですから…… そのぉ…… つまり、"あんない"のアンナですぅ!」
「なんちゅーいい加減なネーミングだ!」
「今考えましたから…… でも…… でも、私カズヤ様にもう一度お会いしたかったですぅ!」
- 言うなり、アンナと名乗った魔女がいきなり一哉に抱き着く。
「うわっ! わ、わかったから、いきなり抱き着くのは止めてくれ!」
「もぉ、 カズヤ様ったら、照れちゃってぇ〜」
「てっ、照れてなんかいねーよ!」
「カズヤさまぁ〜!」
「あ〜、もうイイから元に戻れ!」
「あぁん、もぉ〜カズヤ様のいじわるぅ!」
- 一瞬で魔女は元の案内おばけに戻ってしまった。
奇妙な『間』が過ぎた。
「ところで…… お前、変身したらキャラ変わってないか?」
「そ、そうなんですか? 実は私、変身している間は何がどうなっているのかわからないんです……」
「ぇ、そうなのか?」
「こればかりはどうにもなりませんので……」
「訳わかんねーよ!」
「それより、どうやら到着したようですよ」
「到着って、何が?」
「魔界に行くための乗り物です」
「へ!? 乗り物?」
「はい、乗り物でございます」
そう言うと案内おばけは窓の方を指し示した。
一哉もそれに合わせて窓の方を見る。
すると、窓の外には黒くて巨大な物体が浮遊停泊していた……
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