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□ナカロマ
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「…見習い、ですか?」
ぽつりと、エレンは返した。
兵士の中にそんな括りがあったなんて、聞いたことが無い。
「そう。
あの子はね、なんていうか特別なんだって。」
「…そうなんですか。」
そう言って、ペトラとエレンは離れた場所で兵士と談笑する少女に目を向けた。
彼女が笑うと周りに華が咲いたようで、ふんわりとした雰囲気に包まれる。
年齢はエレンより少し上らしい。
整った顔立ちに、小柄な背丈。
肩までの下ろした栗色の髪は淡くウェーブしている。
隣にいるペトラもそうだが、可愛らしい女性は兵士以外にも生きていく道はあったのではないかと思ってしまう。
一体誰なんだろう、とは思っていた。
今まで何度か本部内で見かけてはいたが、エレンがその存在を誰かに聞いたのは今日が初めてだった。
「…本人はとってもいい子なんだけどね。
まぁ、後は見てれば分かると思うよ」
「はぁ…」
本人は、って?
なんだか訳ありみたいだな。
「…エレン、ペトラ。
掃除は終わったようだな」
「…!!」
「リヴァイ兵長!あ、あともう少しで終わります!」
「……頼むぞ」
慌てて二人は作業に戻り、リヴァイは半ば呆れた表情で、しかし何も咎めないでその横を通り過ぎた。
「…」
エレンが手先だけで掃除用具を動かし、中腰の姿勢でリヴァイの姿を目で追うと、彼が向かった先には先ほどの少女がいた。
彼女にも注意するのだろうか。
仕事に戻ったほうがいいぞ…、と心の中でその少女に注意を促すが、目の前の光景はそんなエレンの予想を裏切ったものだった。
リヴァイは話をしていた少女と兵士に歩みると、無遠慮に少女の肩を掴み、振り向かせる。
少女は一瞬驚いた表情を見せたものの、相手がリヴァイだと気付いて更に笑顔を満開にさせる。
…あれ、注意をするわけではないのか。
と、いうか本当に可愛らしい人だな。
何か言葉を交わしているようだが、そんな二人の様子を見てひとり蚊帳の外状態だった兵士はびくりと肩を大きく跳ねさせてから、一目散にその場から去っていった。
…?
リヴァイとその少女は二人でしばし会話をしていたようだが、彼女の表情がとても楽しそうでキラキラとしているのを見て、この子は兵長のことが好きなのかな、と思った。
リヴァイの顔はこちらからは見えない。
その後、二人並んでどこかへ歩いて行った。
完全にその姿が見えなくなったのを見て、エレンは体を起こした。
…なんだ?
かなり親し気に見えたが。
どういう関係だ?
そんなエレンを横目でちらりと見て、ペトラも掃除の手を一瞬止める。
「…分かった?」
「あ、えっと…。
兵長の恋人ですか?」
「−−−では、無いらしいんだけどね。
兵長の態度とか、今度ゆっくり見てみるといいよ。
超〜貴重だから!」
ふふ、と小さく笑いながら目を逸らしたペトラは、楽し気に言いながらもどこか寂しげだった。
あ、
もしかして、ペトラさんも兵長のこと…?