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□ナカロマ
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彼女の歩調に合わせながら、リヴァイは自分より微かに背丈の小さい少女に目をやる。
「どうだ、仕事の方は」
顔を合わせれば聞くのはこればかりだ。
最近、彼の口癖に成りつつある。
「楽しいよ!
色んな所のお手伝いをさせてもらってるから知り合いも増えたし、仕組みも何となく分かってきたし。
…これはリヴァイに感謝かな?」
「…そうか」
でも、とエマは続ける。
「見習い、なんて皆変な顔するよ。
やっぱり私も皆と一緒に…」
「…周りなんて放っておけばいい。
その話は、また今度だ。
…補給班の話はその後どうなってる」
「あ、あれはね…」
不自然なほどに別の話を振られ、不本意ながらも見聞きした情報を彼に伝える。
兵団の中には色々な部門が存在しており、各々が提携することで成り立っている。
現在私は本部に出入りしながら、必要であれば各部門に足を運んでいるという状況だ。
「なるほどな。
今後はもう少し早く報告するように伝えておいてくれ。
俺はエルヴィンのところに行ってくる。
お前もあまり油を売るんじゃねぇぞ。
…じゃあな」
肩をとん、と押して、彼は私とは反対方面へ歩いて行った。
触られた部分にぴり、と熱が集中する。
…またはぐらかされた。
私が訓練兵団を終えてから、早くも二年が経とうとしていた。
成績上位者に滑り込んだ私はエルヴィンとリヴァイの促しもあって当初は憲兵団に所属していた。
私はエルヴィンの遠い親戚で、調査兵団に入団したてのリヴァイとも何度か顔を合わせていた。
女の子が兵士になるなんて、と何度も親類に反対されたが、口先だけの言葉など聞く気にもならなかった。
…私に両親はいない。
父親は調査兵団に所属しており、私が幼いころに壁外で殉職した。
母親は長く患っていた病で10歳の時に他界した。
その後はエルヴィンが実家に引き取ってくれたが、彼もまた多忙を極めていたので会うのは月に何度か程だった。
優しい、優しい彼の家族。
それでも、どこかでお互い遠慮があった。
12歳を少し過ぎた頃には自分が訓練兵団に志願することは至極当然のように思えた。
彼の家族の心配はきっと本心から言ってくれていたけれど、私は調査兵を希望していた。
何度か顔を合わせた、リヴァイという男。
ぶっきらぼうで、雰囲気は近寄りがたいけれど私が近寄っても突き放そうとはしなかった。
話しかけると、ぽつぽつと言葉を返してくれるのが無性に嬉しかったのを覚えている。
一緒にいることで見え始めた彼の優しさ。
自分だけに向けられた優しさかと思い込み、他の人にも同じように接しているのを見たときは幼いながらに嫉妬した。
彼の怖いようで優しい声と、纏う独特の雰囲気をいつからか特別に思っていた。
名前を呼ばれて嬉しい。
一緒に居ることが、嬉しい。
気づけば、エルヴィンに会いに行くと言う口実でいつでも彼の姿を探していた。
幼いながらも、れっきとした恋心だ。
彼も、エルヴィンもいる調査兵団へ入りたい。
おままごとではないのは分かっている。
だけど、戦っていつか心臓を捧げるならば、私は彼の近くにいたい。
…でも。
「…俺は反対だ。」
「私もリヴァイと同意見だな。
エマは優秀なんだ。憲兵か、駐屯兵を希望してみたらどうだ?
それでも気持ちが変わらなければ、我々は君を歓迎するよ」
「…そうじゃねぇ。
こいつが来ても、捨て駒になると言っている。
ただでさえ新兵は生き残れない奴等ばかりなんだからな。」
「…リヴァイ」
窘めるようなエルヴィンの声も私には届かない。
捨て駒。
彼の言葉に、ずきんとした。
役立たずと言われたも同じだ。
確かに、人類最強と言われる彼に私など遠く及ばない。
それでも、人類の為に…、
少しでも彼の近くで生きられたらと思っているのに。
彼にとっては迷惑でしかない。