MORE(ロー長編)【完結】

□no.1
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わたしはある人を探すために海を出た。


“待ってろ”


そんな言葉だけじゃ待てないよ…


わたしは転々といろんな島に渡り探し続けている。


なんでこうも宿の部屋にお風呂ってついてないんだろう

わたしは人がいる時間を避け、誰もこないことを確認して宿の大浴場へ入る。


髪をおろし、服を脱ぎ、いつも絶対にかかせないレギンスを脱ぐ。


レギンスの下からはある海賊につけられた黒の墨が右足にも左足にも浮かぶ。


わたしはあの恐怖を思い出す。


あの日は同行させてもらっていた漁師さんの船にいた。


わたしの目指していた次の島に漁師さんたちも行くからついでにわたしも連れていってやると言われ、わたしはお言葉に甘えていた。

しかし途中、予測もしていなかった悪天候でわたしたちの船は荒れるに荒れた。

そのとき近くに大きな海賊船が近づき、わたしたちを助けてくれた。


最初は助けてくれたとそう信じていた。


船にあげてもらうと誰もが優しい顔でわたしたちの安否を確認してくれた。


漁師さんのおじさんたちと一緒に次の島まで送ってくれる そう約束までしてくれた。


しかしある日、漁師のおじさんたちの姿が船から消えた。


わたしは疑問に思い、海賊たちに聞くが ある特別な仕事をしてもらうために別室で作業をしてもらっている としか答えてくれなかった。


その日からわたしはおじさんたちの姿を一目すら見ることがなくなった。


それと同時にわたしは船長さんの部屋から出ることを禁止された。


最初はただ船長さんの話を聞いたり、時折疲れた身体をマッサージしたりそんな程度で客としてもてなしてくれていた。


しかしある時、船長さんに連れられ物置部屋の掃除を頼まれ掃除をしていたが どうにもトイレが我慢できなくなり船長さんに何も言わずにトイレに向かった。

そのとき、ある部屋から部下たちの話声が聞こえた。

「このオヤジらどう片付ける?船長は最初から女狙いだ もうこいつらいらねぇだろ」


「そうだな 海にでも放り投げとけばいいだろう 漁師のクソじじいたちだ 海が恋しいだろうよ ははは」


わたしは扉の隙間から見てはいけないものを見てしまった。


血を流しぐったり倒れ込んでいるおじさんたちが見えた。


恐怖で腰が抜けた瞬間だった。


足の力が抜けて座り込むようにふらっとした、そのとき誰かの腕で支えられた。

「おっと どこにいったのか心配してたんだ こんなとこで何をしてるんだ」


船長さんだった。


“船長は最初から女狙いだ”


部下の言葉で頭がいっぱいになる。


恐怖で足が震えた。


「何を聞いて何を見たんだ 見てはいけないものを目にし、お前は俺に恐怖を感じている 違うか?」


当然喋ることすらできなかった。


「俺はお前のような飾らねえ女を探してたんだ 色気むんむんでヤりたいばかりの女には飽きていたとこだ 相手しろや」


汚くにやっと笑った。


その顔にぞくっと身体が強張った。


そう言いわたしを連れていき部屋に鍵をかけた。


服を脱がされ、身体をあらわにされてより一層わたしの足はガタガタ震えた。


そんなわたしの足を見た船長さんは苛立ちが募り、この震えるわたしの足に墨を入れたのだ。


「痛みで震えなんか止まるだろ このマークがなんの意味かわかるか?これでお前は俺から逃げれねぇんだよ 墨は消えねえ お前がどんな格好、どんな姿で逃げようとこれがお前である印。 みすみす俺が惚れた女を逃がすわけねぇだろ」


震える右足と左足に足首から膝までにかけてわたしに入れられた墨。


わたしは一生この男の言いなりになるんだろうか


そう思うと、こいつを殺したい


そう思うようになった。


それから毎日毎日この男のそばでこの男をどうやって殺してやろうか考えた。


しかしわたしがまともに戦って到底勝てる相手でもなく、わたしが何か怪しいことをすれば全てバレてしまった。


あるとき、敵船と一戦を交わしていた。


そのときに転機が訪れる。

敵船との一戦はなかなか終わらず、船長同士の戦いが長引いていた。


部下たちもあの男も今行われている目の前の戦いのことでいっぱいでわたしを気にかけている人は誰もいなかった。


逃げるなら今しかない


そんなとき、わたしが隠れていた部屋の窓からあの男が倒れ込んだのが見えた。

そしてあの男は敵船の船長にとどめをさされ多量の血を流しピクリとも動かなくなった。


わたしはその隙にこの船にあった予備のボートで逃げたのだ。


そして誰にも気づかれずに今こうして人探しの旅を続けている。


ただあれからわたしはこの足をいつだって隠している。


見られたくない わたしの身体の傷であり、心の傷だから。


わたしはササッと髪や身体、顔などを洗い大浴場を後にする。


わたしはこの足を一生隠し続けないといけないんだ。

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