ブック
□そんなに泣かないでください。理性が保たなくなる
1ページ/1ページ
晴れて候補生にランクアップした私たち。
今まさに授業の一貫で下級悪魔の討伐が割り当てられていた。
「名無し!嬉しそうだな!」
「おう!まだまだ半人前だけど候補生になれたから!」
「そっか!でも気を付けろよ!下級でも悪魔なんだからよ!」
「がってんでぃ!!」
今日初めての討伐任務は奥村燐とペアだ。名前からお察しの通り奥村先生…変態=奥村先生のお兄さんだ。
変態とは違い燐はとってもいい人だ。
「燐、君の弟くんとーにかならないの?気持ち悪い」
「え!?気持ち悪い?雪男はあーゆーやつだからな…どうにも」
「そか変態は直らないか…」
「悪ぃー相談に乗れなくて」
困ったように眉を下げ頭をかく燐。な、なんていい奴なんだ!!変態=眼鏡の質の悪さに比例するように燐はいいやつだ。
「燐はいいこだなー」
「へへ…お!名無し!小鬼があんなにいるぞ!!」
「お!まじじゃん!」
「あいつら大人しいんじゃねーの?」
「わかんないよ。でもいま、ものすごい飛び回ってるね。危ない…よって!!燐!」
「行ってくる!!」
一人で走り出す小鬼の元へいってしまう燐。
ペアは二人だからペアと呼ぶのだがこれじゃ単独討伐じゃないか。
「っ怖くない!!」
暗い森に一人。
小鬼は下級の悪魔だがキングサイズになってくると体躯同様に中級だ。
「小鬼しかいないって!!うん大丈夫!」
自分を励ましつつライトを照らしながら燐のかけていった方を目指す。
「りーん!!りー……ん……」
あぁ、やってしまった。正確にはなにもしていないのだが。
目の前には小鬼をたくさんつれた鬼がそびえたっていた。
鬼の頭には王冠のようなもの。まさにキングサイズ。
「あっ…えっと……どーしよ!」
取り敢えず腰の短刀に手を伸ばす。
《グルヴァァァ!!》
「っ!!」
鬼は名無しに向かい走る。大きさが大きさだけに名無しも脚がすくみその場から動けなかった。
「い、いやぁぁぁぁ!!」
パンッパンッ
よく聞く銃声が響く。
咄嗟に構えた腕の隙間から前を見る。
名無しのよく知る背中が見えた。
「大丈夫ですか?まさかキングサイズがいるなんて…」
「先せぇ…っ」
死ぬかと思った緊張がとけて涙腺が崩壊した。
地面に座り込むかたちで名無しは泣く。
「怪我は?」
「ないっ」
「痛いところは?」
「なっい」
「私のことわかります?」
「変態っ」
「名無しさん泣き止んでください。ムラムラするんで」
「さ、さいてぇ!!」
泣き止むまで30分。
『そんなに泣かないでください。理性が保たなくなる』
end