ブック

□なんだか僕が僕じゃなくなります
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今日は兄上に言われた通りオクムラリンに奇襲をかけた。

あとちょっとだった。

本当にあとちょっとでオクムラリンを殺せた。

なのに兄上はボクを御菓子の鳩時計に閉じ込めてしまいました。

そこで何分、いや何時間たったのかはわからない。時間があるのかさえも。

ただあるのは殺し損ねたオクムラリンに対する憎悪と高ぶった興奮気味のボク。



「……名無し。会いたいです」



なんだか妙に虚しくて寂しくなって。

ざわついていた殺気が収まると途端に胸がぽっかり開いて。

ボクは知ってるこれは名無しじゃないと埋められないこと。 一回想うと堪らなく名無しに会いたくなること。



ボンッ


「あ」


「はぁー…名無しさん。これでいいですか?」


「アマイモンさんっ!!」


「っ名無し!?」


「しん、ぱいしましたっ…ひっく…」



視界が明るくなったと思えば目の前一杯に泣いた名無しの顔。
なんでボクがここにいるのか、なんで兄上が出してくれたのか。聞きたいことは沢山あります。

けど、一番は名無し。



「泣かないでください。ボクも悲しいです」


「っだって…ひっく…アマイモンさんがぁ………ふっ…」


「アマイモン。名無しさんと自室に戻れ」


「はい。兄上」



泣いている名無しを優しく抱き上げて自室に向かう。

ボクの胸に顔を埋めて泣きじゃくる名無しにボクはどうしていいかわからなくなります。

ただ笑ってほしくて。泣き止んでほしくて。


自室のベッドに優しく下ろしてあげればボクのジャケットをギュッと握る名無し。



「ボクはここにいます。死んでません」


「ケガ……してる…っひっく」


「へーきです。泣かないでください。あ、名無し」


「ふぇ?」


「この頭見てください。ブロッコリーです。食べますか?」


「……っアマイモンさん。ハハハ…アマイモンさん…」


「笑ってくれました」



こんなボクを誰が虚無界の権力者だと言えようか。

笑ってほしくて必死になって。 泣き止んでほしくて沢山笑わせて。

名無しを前にするとなんだかボクがボクじゃなくなります。
殺伐として破壊と殺しを好む地の王じゃなくなります。悪魔と言う括りを感じなくなって、ただ名無しを愛している一人の男になります。

それがどうしようもなく恥ずかしくて嬉しいんだ。



「名無し。名無しを残して死ぬようなことは絶対にしません」


「……信じてもいいですか?」


「当たり前です。ボクは守れない約束はしません。」


「じゃ、約束ですよ!」


「ハイ!」



赤くなった目尻にチュッとキスをする。
名無しは真っ赤になって笑う。その笑顔は誰にも叶わないくらい綺麗。



悪魔が約束なんて、と思うかもしれないけど。

ボクと名無しを繋ぐものだから。

二人が離れられない甘い甘い呪縛。この呪縛を破らないようにボクはどんな時も君の元に舞い戻ります。

その時は笑顔で迎えてください。










なんだか僕が僕じゃなくなります










「可愛ブロッコリーですね」


「そうですか?」


「はい!!食べちゃいたいです」


「(キュン)」














end

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