「シンそろそろ帰りますよ。貿易船も見ましたし、買い物も終わりましたよ!」
「知っているさ。……こっち、いや。うん!!こっちにしよう!」
「酒を選ぶのに何分かかってるんですか?ハァー…アラジンたちは先に王宮に行きましたよ」
「おぉ、そうか!」
やぁ、俺はシンドバッド。このシンドリアを納めている王だ。
しかし町は明るいいい雰囲気だ。子供の元気な声、市の賑わい、何より国民の笑顔。
よしよし、活気溢れているな。
仕事の一貫で町に降りてきて、半ば不安だったのだがとても安心した。
「では、帰ろうか。ジャーファル、マスルール」
「そうですね」
「ッス」
正反対な性格の部下2人と共に王宮へ向かう。
「ナナシにーちゃん!!早く早く!」
『お前は何に急かされてるんだよ?走ると前方不注意で誰かに当たるぞ』
「へーき!!」
俺たちの前から聞こえてくるやりとり。
にーちゃんと言った少年の腕には1つのリンゴ。
嬉しいのか後ろを向きながらにーちゃんとやらを急かしている。
『走るなって…危ないから』
「大丈ぶふっ!!」
「シン!」
「っとっと……」
そして見事に少年は俺に激突。持っていたリンゴも地面に落ちて見る影もなくなる。
『リク!』
慌てたように叫んで走ってくるのはなんていうか真っ黒い青年だ。
片手に釣竿片手に今日の釣りの成果とでも言おうか。
とにかく両手一杯に荷物を持っている。
「ひっ、…う、うわぁぁぁん!!」
「マスルール」
「ッス」
「おい、ジャーファル…。落ち着け」
目が血走ってるぞ、腹心の部下ジャーファル君。
マスルールも素直に聞かなくていいのにな、あ、それはダメか。
ハァー…と俺はため息を1つつく。
そんなことお構い無しにマスルールは少年の襟首を持つ。
そして、それは一瞬だった。
大きな強風に煽られて目をつむる。マスルールも少年を持っていない腕で目を隠した。
驚くのはそこではない。
『物騒だなぁ…リク大丈夫か?』
「ふ…う、うん!!」
そう、驚くのは先ほどまでマスルールが持っていた少年があの真っ黒い青年の腕にいたこと。
青年の少し後ろには釣竿とその他がおかれていた。
換算するにその位置からマスルールの元まで瞬き1つの早さできたと言うことになる。
……なんて早さだ。
「シン…あの方は……」
「わからない。だが、風のようだったな」
「……気付かなかったッス」
あの、マスルールでさえ青年の早さに圧倒されている。
何者なんだ?
『あ―……すいません。宝石ジャラジャラつけた大きな方々が我が物顔で道を歩いていたもんで、ぶつかっちゃいました!』
「な!!なんて口を利くのですか!?仮にもこの国の…」
「ジャーファル」
「シン!」
青年は少年を逃がして俺たちの前に立つ。
耳につけている大きなピアスがキラリと太陽に反射した。
『こっちも被害者なんスよ。リンゴ…。ない金でかってやったのに…』
「君、私たちも不注意だった。許してくれないか?」
『許してくれるんならありがたいッス。その服についた染みも許してくれるんスよね?』
「染み?」
「シンさん…リンゴの果汁ッス」
「シ、シン!?」
『屈強な体でリンゴ潰した罰ッス!!おあいこッスね』
「黙って聞いていれば…だいたい口の聞き方がおかしいですよあなた」
『すいまっせーん。勉学はしたことがないッスから』
ジャーファルが怒っている。
いつか胃に穴が空いてしまうんではないだろうか?
まぁ、俺の仕事しない病にも苦しめられてるんだろうけど。
『あ、リクに新しいリンゴ買ってくるんで、お仕舞いににしましょう?んじゃ!!』
「ちょっと待ちなさい!!」
『ぐうぇ!?首布ひっぱるな!!死ぬぅ!!』
「話は王宮で聞きます。マスルール離してはいけませんよ」
「ッス」
「ナナシにーちゃん!!」
「ナナシさん!」
『リクとミーナさん!!俺は大丈夫!王宮行けるんだってさ!王様に会えるかな!』
俺は気づく。
この子はちょっとアレだ。お馬鹿なんだな!
だから俺の正体に気づいてないんだよな!
だってさ、少年のお母さんも少年も気まずい顔してるよ?
『あとで、リンゴ買ってやる。だから泣きそうな顔するな?な?』
「う、ん!!」
これが俺とナナシとの出会い。なかなか運命的だとは思わないか?
end