「シンお開きなんですよ?王宮に戻って書類整理でもしてください」
「げ、ジャーファル!!」
「げってなんですか」
酒をのんでいたらまさかジャーファルに見つかるとは。
よし、ここはナナシ君を口実に逃げさせてもらうことにしよう。
「さっきナナシ君に呼ばれたんだ!!少し行ってくる!!」
「シン待ちなさい!!…はぁ…まったく」
ジャーファルが眷属器を出さないかハラハラしたが何事もなくてよかった。
さて、どうしたものか。
少しは慣れた林を進んでいくと今日見慣れた黒い彼がいた。
腹が黒いとか言う意味ではなく格好や容姿がって意味だからな!
小さな背中を見ていたらコクコクと首が船を漕いでいた。
眠いのなら家にかえったらよかったのに。
あぁ、そうか。食客として招いたのは自分じゃないか。多分家に帰っていいのかわからなかったのだろう。気を使わせてしまったな。
「やぁ!ナナシ君」
『あ、シンさん』
眠たい目を擦りながら俺を見上げる。あくびをしたのか目尻にたまった涙。酒で上気した頬。
必然的に上目遣いになるナナシ君に顔が熱くなるのがわかる。
素直に可愛いと思った。
ドカリとナナシ君の隣に座る。女のように小さな体を丸めて座っているためますます小さく見える。
『シンさんはこの国が好きなのか?』
ぼんやりナナシ君を見ていたら小さな声でそう問われた。
聞かれるまでもなくこの国が大好きだし、大事だ。
肯定の意を示せばナナシ君はどんどん話し出した。
朝の彼からは想像ができないくらい饒舌になっている。
『生まれて物心付く前に刀を握らされて。は、って我にかえったらもう遅かった。目には見えないけどこの手は真っ赤に染まっていた。どれだけ人を殺したかなんてわからない。言われるがままに殺してきたからね』
「煌帝国で、か?」
ナナシ君は自分にはこの国がもったいないといった。
真っ黒だからねぇといった。
あぁそうか。ナナシ君は暗殺者として今まで生きてきたのか。だから自分にはこの国がもったいないといったのか。
けど、俺はそうは思わない。ナナシくんは人のために自分を奮い立たせることができる素敵な人間だ。それは今朝知った。
リク君を助けるためにかけていったナナシ君は颯爽としていてとても勇ましかったのだ。
もったいないわけあるか。
『あーあ…この国は、…俺には…た……い…』
「ナナシ君?」
肩に感じた微かな重み。隣を見てみれば眠りについたナナシ君が俺の肩に凭れ掛かっていた。
小さな寝息に俺は何だか胸が苦しくなる。
フワフワな癖っ毛の頭を撫でる。
純粋に守りたい
そう思った。
人を殺した数はわからないと言ったけど何人殺したって君は堕転しないような、そんな気がする。
こんなにも綺麗なのに。
血で真っ赤に染まっているはずがない。
ナナシ君、君は聡明で美しいよ。
明日起きたらそう言って頭を撫でてあげよう。
このシンドリアにいる間はずっとその真っ黒で思い出したくない記憶を思い出さないで幸せに暮らしてほしい。
それを手伝いたい、何て言ったら君はどうするんだろうね?
お節介だと言ってつっぱねながら笑うのだろうか?
けど、ナナシ君は優しいから俺が傷つかないように最後は冗談だと言って笑いそうだ。
「フッ…入れ込んだものだな。ナナシ君。おやすみ」
額の髪を払って小さくキスをした。自嘲気味に笑ってナナシ君を抱える。
見えてきたアラジン達。
ジャーファルは驚いたように駆け寄ってきた。
「なにしてるんてすか!?襲ったんですか!?まったく節操のない…」
「バカ俺が誰彼かまわずてを出すか?」
「出しますね」
ズゥゥゥンと沈む俺に反してマスルールとアリババくんアラジンの3人がナナシ君の頬をつついて遊んでいる。
「ナナシお兄さん綺麗だね!眠ってると女の子みたいだ!」
「寝てんなよぉ〜ヒック…」
「……」
アリババくん酔ってるね。
彼らにナナシ君を運ぶと一言いったら「襲わないでくださいね」「節操無しだから無理ッス」「おじさん頑張って!!」「起きろよぉ〜」とそれぞれ帰ってきた。
流石に寝てるやからを襲うほど節操無しではないよ。アラジン。なにを頑張ればいいんだ?
はぁー…とため息をついてナナシ君を運ぶことに専念した。
end