周りが真っ暗でなにも見えない。ここがどこだか俺は知ってる。
ここは俺が見ている夢の中。
昔見ていた嫌な夢。
言うなれば悪夢。
最近見ていなかったのに。
「ナナシ」
「ナナシ」
「ナナシ」
誰だか分からない沢山の人に名前を呼ばれる。
頭に直に響くようで鈍い痛みが走る。
夢のはずなのに痛みも声も何もかもが鮮明に感じる。
『っ!!』
「ナナシ」
「ナナシが、殺した人間」
「ナナシに、殺された人間」
「後ろを見て」
言われた通りに後ろを向く。
後ろを見れば昔見慣れた血濡れの死体。見慣れてなんともないはずなのに。
胸が苦しくて直視できなくて。
「名無」
『お、母さ…ん…っ』
「こっちに来て」
血濡れのお母さん。紛れもなくこの手で殺めた大切な命。
次の展開を知ってる俺。
なのになぜかお母さんの伸ばした手をとってしまう。
また、言われるんだ――。
―――"お前が、死ねばよかったのに…"
『っは、…あぁ…っ!!』
「名無、名無、私の名無」
言うな、言うな、言うな、言うな、言うな、言うな、言うな、言うな!!
頭が割れるみたいに痛い。それを聞くたびに何度どん底に落とされたか。
だけど俺が殺したのは事実で何にも変えられない真実。
けど、
違った。
「名無――――。あなたは、――て。私の――まで―――て。――――わ」
『っ!!お母さん?』
「――――――」
『っ!!まって!行かないで!俺を置いていかないで一人に…しないで……』
手を伸ばした。けどお母さんの手は掴めない。
走っても走っても追い付かない。ガシリと足を捕まれる。転びそうになった足に力を入れてそれを防ぐ。
「お前は私のものです。お前の傷はお前が親を殺し私に忠誠を誓った証。消えぬのならお前は"一生"私のものなのです!!」
『玉…艶っ様……!?』
「待っていますわ…私の可愛い名無。また会えたならその力を存分に発揮しなさい。私は待っています。ずっと、ずっと、ずっーと…」
『俺は…俺は…』
頭が痛い。首の傷がヒリヒリする。
何も聞きたくない。
見たくない。
感じたくない。
目を閉じて自分を抱くように腕を回す。玉艶様。あなたが俺は怖くて仕方ない。
見ているだけで飲み込まれそうになる。
だからはやく覚めろ。こんな夢。
「あなたの居場所はこちらにしかないのよ。あなたは血にまみれた無感情のただの人形。人を殺すためだけのただの人形」
『あっ……お、れは……人形?』
「ナナシ君。君は聡明で美しいよ」
『っ!?』
「君は他の人のために自分を奮い立たせることができる素敵な人間だ。だから怖がらないで、目を開けてごらん?」
背中に感じる暖かいぬくもり。
なんだ?
わからない。けど心地よくて。
後ろを向けば目が開けられないくらいの光。逆光でなにも見えない。ただ、靡く長い髪が光に照らされて綺麗に輝いている。
「君は誰よりも優しくて、強いじゃないか!その力は誰かを殺す為じゃなくて護る為に使いなさい。だれよりも臆病で小さなナナシ君」
『…"――"?』
俺はそこで小さく誰かの名前を呼んだんだけど。声にならなくて。でもどこか懐かしくて心地よかった。
そして俺はその人に手を伸ばした。しっかりと握って手を引いてくれた。
こんな夢知らない。
今までと違う。
こんなに暖かい夢初めてみた。
だんだんと意識が浮上していくのがわかる。
『…――っん?…あ、』
目が覚めたら久々に涙が頬を伝っていた。
夢を見て泣いたのは何年ぶりだろうか?
それよりも夢を見ていたのは分かるのに後半を全然覚えていない。
『なんだったんだ?』
「やぁ、ナナシ君。大丈夫かい?」
『あ、大丈……ぶ……?』
「泣いていて驚いたよ!あれ?ナナシ君ナナシくーん!」
は?なんでシンさんが一緒のベッドにいるんだよ?
しかも手を繋いで。
しっかり俺も握ってるじゃねーか!
つか、なんでシンさん裸なんだよ!爽やかなのは分かったけどなんでだよ。
頬がひきつるのがわかる。
気づいたら俺はこれでもかってくらい叫んでた。
end