『あ、お…俺……っな…?』
「ナナシさん大丈夫ですか?まったくシンは…」
「まぁ…ナナシちゃん可愛いですもんね」
「でも王さまよぉ、寝起きはダメだぜ?寝起きは」
「七海の節操無しがぴったりッス」
「………」
現状を説明しよう。
俺は寝台の上で正座し俺の部下に散々罵倒されている。
……だが、俺は無実だ!!
まだ手は出していなかったからな!
そう、現状に至るまでの経緯を話そうか。
遡ること半刻ほど前。
昨日俺の隣で寝てしまったナナシ君。まだ部屋はジャーファルから聞いていないしナナシ君をどの部屋に連れていくか悩んだ挙げ句たどり着いたのは俺の部屋。
俺もあのときかなり眠くてすぐに寝た。
そして朝。起きたら何時もの如く裸な俺。それは別段気にしない。なんてたって"癖"なのだから。
ふと隣に暖かさを感じて隣を見たらナナシ君がいた。昨日のいきさつを思い出して一人納得した。
あまりにも綺麗な寝顔だったから少し観察しているとナナシ君が魘され始めた。
寝言は微かに聞き取れる程度。
暫くしてはっきり聞こえた寝言は酷く悲しい台詞だった。
『あっ……お、れは……人形?』
そして流れてくる涙。
あぁ、ナナシ君はきっと昔の夢を見てるんだなと変な確信を抱きながら彼の髪を撫でてやる。
そして今日ナナシ君にいってあげるつもりだった言葉を寝ているナナシ君にゆっくり呟いた。
「ナナシ君。君は聡明で美しいよ。」
そう言うと幾分か和らいだ表情になる。さぁ、嫌な夢から覚めるといい。
「君は他の人のために自分を奮い立たせることができる素敵な人間だ。だから怖がらないで、目を開けてごらん?」
「君は誰よりも優しくて、強いじゃないか!その力は誰かを殺す為じゃなくて護る為に使いなさい。だれよりも臆病で小さなナナシ君」
これはどれも俺の本心だ。
寝ているけどきっと届いてるはずだ。
言い終わるとナナシ君は男にしては少し小さい手を俺に伸ばした。俺は躊躇いもせずに彼の手を握った。
『…紅炎?』
「っ!?」
手を握ったら確かに囁かれた紅炎と言う名。
俺のことを煌帝国の練紅炎だとおもっているらしい。
なんだか胸の内に黒い何かを感じた気がした。
そしてナナシ君が目を覚ます。しばらく放心状態だったが覚醒してとなりに俺がいるのを見て叫び出した。
『ギャァァァァ!?!!』
「ちょっ、ナナシ君!!シィー!叫ぶとみんな来るから!!」
騒ぐナナシ君を押し倒して口に手を当て俺はシィーっと人差し指を立てた。
必死にコクコク首を縦に降るナナシ君。
まだ混乱してるだろうに自分を落ち着かせようと頑張っている。
よし、いい子と手を口から放してあげた瞬間だ。
「ナナシさん!!大丈夫ですか!?」
なんてタイミングで来てくれるんだジャーファル君。
端から見たらこれは完璧俺がナナシ君を押し倒している図にしか見えないだろうが!!
そんなこんなで話は冒頭に戻るわけだ。
「シン。今日から七海の節操無しって名乗ってくださいね!」
「え!?拷問!?」
「いやいや覇王ならぬ淫王とかどーですジャーファルさん!!」
「それ頂きましょうヤムライハ。てことで、シン。あなたは今日から七海の節操無し淫王です」
なんでこうなってしまったんだ!!
ナナシ君に目線で助けろ!と送ってみたが未だにオロオロしている。
いやオロオロしているナナシ君も可愛いけどね!
『シ、シンさんは何もし、してないっス!!』
「……」
「ナナシ君!」
もっと言ってやってくれ!!俺の七海の覇王の異名を取り戻してくれ!!
「ナナシ健気だなぁ〜!!」
『いやぁ…健気じゃなくて…』
「……ヨシヨシ」
シャルルカン、マスルール覚えとけよ!
「さぁ行きますよ皆さん。七海の節操無し淫王様。服着てくださいね。では」
ジャーファルの目が暗殺時代のあの目に戻っていた。
静かになった部屋で俺のため息だけがやけに大きく聞こえた。
end