あぁ、どうしてこうなってしまったのだろうか。
私は獅郎から言い渡された買い物を遂行しようとしただけではないか。
「くっ…なさけない………」
右を見ても左を見ても人間しかいない。
どうしたらいい?人に聞けばいいのか?
なくした地図を必死に思い出しながら深呼吸した。
そう、私は所謂迷子です。
こんなんじゃ、経堂に馬鹿にされるに決まってる!!
「打開策を練らなければ」
悶々と考える。
迷子に打開策なんてあるのだろうか。迷子が考えたって意味ないんじゃないだろうか。
「やはり一度かえるか………っん?」
帰ろうと踵を返したと同時に常服の裾を引っ張られた。
下を見れば小鬼。
誰かに飼われているのか鎖が繋がっている。
「お前も迷子か?」
「グルルル…」
「実は私も迷子になってしまったんだ。どうすればいい?」
「ガウガウ!!」
「すまない。よくわからない」
「……」
あからさまにシュンと下がるしっぽ。慌てて小鬼を抱き上げる。
「わるかった!!一緒にご主人探そう!」
「ガウガウ!!」
「へへ…くすぐったいな」
抱き上げた小鬼は肩に手をついて大きな舌で私の頬を舐める。
よかったよかった。
しかしこの小鬼のご主人を探すのは私の迷子から抜け出すよりはるかに難しいだろう。
だってご主人どんな人か判らないし…。
第一人間かも定かでない。
「ベヒモス!!」
「ガウッ!!」
「はぁ?」
いきなりそんな声が聞こえた。 声の方を向けば緑の髪、尖り、飴ちゃんをくわえた青年が立っていた。
小鬼…多分ベヒモスは喜んで私の腕から飛び出て駆け出す。
え、簡単に見つかりすぎだろ! 私を置いてく気か!
「アナタは誰ですか?」
「え、あー…ナナシだ。小鬼が迷子になっていたから…」
「ナナシですか。ベヒモスをありがとうございます。ナナシはなにをしているんですか?」
無表情な彼は眉1つ動かさず首をコテンと傾げた。
「わ、私……も……迷子です」
「ナナシ迷子なんですか」
「……うぅ…迷子だ」
「ははぁ…買い物に行きたいんですね?」
私のバッグを指差しながら彼は言う。
もしかしたら案内してくれないかな…。
「どこにいきたいんですか?」
「正十字スーパーにいきたいんだ」
「あそこならすぐ近くですよ?」
「うぇ!?」
「ベヒモスいきますよ?びゅーん」
彼は私の体を軽々と持ち上げ肩に私を置く。
落ちないように太ももに回された腕。
私も落ちまいと彼の腕にしがみついた。
……てか、この飛躍力…悪魔?
「しゅたっ!!つきました」
「あっ!!本当だ!!よかった…」
「では、ボクは行きます。ベヒモスをありがとうございました。また会いましょうナナシ」
「あ、え…ちょっ!……ありがとーございましたぁぁ!!」
私の返事を待たずに彼は飛んでいってしまった。
最後はさけんでしまい周りの人に怪訝な目を向けられたけど。
気にしない!!
「あー……名前聞いてないな」
わりと重要なことに今さら気づく。
「まぁ、いっか…」
ナナシは気にせずに正十字スーパーに向かったのだった。
この出会いが今後の未来を変えるとも知らずに――…
end