買い物をすまして正十字教会に向かう。
向かう際またプチ迷子になり教会についたのは陽が傾き出した頃だった。
「ヤバイな…朝に出たはずだったのに……」
バッグに入った卵を割らないようにそっと持って教会の門を潜る。
「っ!?」
潜ったは良いがなにやら真っ黒いオーラを出した獅郎が階段に座っている。
一歩間違えたら瘴気を放ってる上級悪魔だ。
足は貧乏揺すりをしてるし吸殻半端ないし。
間違いない…殺される!!
「ヤバイな…ヤバイ。ヤバイよヤバイ……」
裏口から入ろうそうしよう、ってな具合で私は裏口に向かう。
勿論獅郎にばれないように。
「ヤバイよヤバイよー……ヤバーイ」
「だぁれが出川☆郎で帰ってこいつったよぉぉぉ!!」
「ひぎゃぁぁ!?」
後ろから怒鳴り声。
背中に感じた衝撃。
獅郎に蹴られたんだ!!
「卵ぉぉぉぉ!!」
「エッグになりてーのか!あぁん!!」
「えぇ!?エッグ!?」
「帰ってくんのが遅ぇーカタツムリかこの出☆!!」
なんとか卵を死守した私は常服についた砂を払う。
獅郎はまだ瘴気をバンバン出してる。
「わ、悪かったよ…迷子になってよ…」
「ナナシ」
「んぁ?」
「……よかった………っ!!」
「っな!?」
急に真っ暗になる視界。
途端に香るのは獅郎の匂いと煙草の独特な匂い。
背中に感じる暖かさ。
「し、獅郎?」
「馬鹿っ…心配しただろーが」
「……ごめんなさい…」
「帰ってきて…よかった」
絞り出したような声に胸が締め付けられた。
こんなにも獅郎を心配させてしまったのか。
震えている獅郎を私も抱き締めた。背中に回る腕がさらにキツくなる。
「ちゃんと帰ってくるよ…獅郎」
「任務からかえってきた時心臓が止まりそうだった」
「ちゃんといる。ここにいるだろう…?」
「あぁ」
初めてこんなに満たされた気がした。
虚無界にいた時には感じることができなかった感触。
どんなに血を吸っても感じなかったのに…。
魔神に抱き締められて感じた嫌悪感はひとつもない。
ずっとこうしていたい気持ち良さを感じる。
獅郎はやっぱりすごいな…。
「ナナシ」
「……ん?」
「ありがとう」
「何が?」
「いや…なんでもない」
放された体は今までにないくらいのあたたかさ。
獅郎の体温と私の体温だ。
そっと絡められた手。
私もキュッと爪を立てないように握る。
「いくか!」
「おう!」
ただ少し、もうちょっとこうしていたかったけれど。
そう思ったら獅郎が足を止める。
「あ、ナナシ!」
「なんだ………んむぅ!?」
「おかえり」
「た、た、た、た、只今………」
唇に感じたのは確かに獅郎の唇で。
何をされたのか気づくと私は頭から湯気が出た。
グチャ!!
余りの驚きと羞恥に放心してしまった。
腕から落ちたバッグ。あぁ、卵わっちゃった…。
「ナナシちゃーん…?照れんなよ!」
「ば、馬鹿獅郎ぉぉぉぉ!!」
「にゃはははは!!」
end