色染くココロ

□煙草とナナシ
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目が覚めたときから既に変だった。

寝苦しくて起きて気づく。今日のこの感じは十五夜だ。


体が疼いてしかたがない。
体の芯から熱くてしかたがない。
虚無界にいるときは疼きを感じた瞬間に悪魔を倒していた。そして血を有りったけ飲んだ。

だからこの疼きを長時間感じたことはない。しかも耐えられる自信がない。

震える手を握る。



「考えていなかったな…」



荒くなる呼吸を必死に抑えて冷静になるように言い聞かせる。

教会の奴等を傷付けてたまるか。せっかく私に居場所を与えてくれたのだから。

自らそれを犯してしまいたくない。だけど体の疼きは、熱さは収まるのを知らない。



「っちぃ…」



今はまだ朝。陽が登り初めて数時間しか経っていない。

今日1日この疼きを抑えつけられる自信がない。



「んぁ…?起きてたのか?おはよーさん」


「し、獅郎…っ!!お、はよ…」


「んだ?顔色悪ぃな?風邪か?」

「違う……っよ、寄るな獅郎!!」

「んだよ…?なに怒ってんだ?」

「獅郎っ!!」


パチンッ



乾いた音が部屋になり響く。

あ、と我に返るり獅郎を見上げれば眉間に皺を寄せて目を吊り上げている。

―――やってしまった、怒らせてしまった…。


さらに苦しくなる心臓を抑えて窓にてをかける。

今ここにいたら本当にヤバい。獅郎を、教徒の皆にキバを立ててしまう。

本当…自分がこんなに我慢の効かない奴だったとは。



「悪い……っは。よ、夜には…帰るから」


「勝手にしろ!」



バタンと閉められた扉。

獅郎の肩を掴みかけた手を反対の手でおさめて窓から飛び出した。


「すまないっ!!獅郎っ…」














「藤本神父?」


「っくそ…」



ナナシが逃げ出した。

何で逃げ出したのかとかたくさん聞きたいことはある。

けど、一番聞きたいのは俺を拒絶した理由だ。

このまえキスしたこと怒ってんのか?いや、あれはあの場で解決したじゃねーか。


なにが、嫌だったんだ?


んなこと心当たりが有りすぎでわからねぇー。

お節介で勝手に助けたのも、アイツを無理やり教会に連れてきて使い魔にしたのもそーだ。

全部嫌だったのかも知れねー。

だったらなんで……言ってくれねーんだよ…。


なぁ、ナナシ?







わからねぇ…、だからわかり会おうとするんじゃねーか。

わかり会う為に喧嘩して話し合うんじゃねーか。

けど、どれもナナシがいなきゃできねー。



「っナナシ」



いつの間にかこんなに入れ込んでいたのか。

依存してしまったのか。

ナナシがいて当たり前になったのか。


自嘲気味に笑って心を落ち着かせるために煙草を手に取った。

灰一杯に感じるのは苦い苦い煙。苦いくせにたまらない。

手放せない。



あぁ、ナナシと一緒だ。


胸一杯に感じるのはナナシの匂い。甘くて甘くてたまらない。
だから依存してしまったんだ。





早く会いてぇ…会って話してぇ。なぁナナシ。









end

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