「っはぁ…ちくしょ…っ!!」
頭の中が真っ白。何も考えられない。下にいる人間が赤く見える。
「……旨そうぅ……っ!?」
だんだん堕ちていく。
背中に感じる月光が「やっちまえよ」と話しかけるように私を照す。
もう、限界だ。
嫌な音をたてて伸びる爪と牙。 そして真っ赤に染まる目と髪。
こうなってしまっては誰にも止められない。私が満たされるまで止まらない。
私は悪魔が嫌いだと言った。
けどやっぱり悪魔なんだ。
本能的に厭らしく持ち上がる口。
本格的に意識が飛びそうだ。
――――そうだ、お前は真っ赤な悪魔だろう?遠慮すんなよ!
――――真っ赤な悪魔?
――――沢山いるだろう?目の前にお前の"餌"が
「餌…真っ赤な餌…………」
――――そう。真っ赤で美味しい美味しい血液の塊が!!
「ナナシ!!」
「真っ赤な人…私の餌…」
「ナナシ!」
目の前に獅郎の肩。
走ってきたのか荒く上下に動く。
――――みーつけた!!
「っ!!」
「いっづ!?」
「……っむ…ん…」
ガブリと布の上から獅郎の肩にかぶりつく。
久々に広がる血の味。
甘い、とっても甘い。
満たされる。今までにないくらい満たされてる。
――――よく見ろ!?獅郎だ!!獅郎だろ!!
うるさいなぁ…うまいんだからいいだろ………し、ろう?
獅郎…
獅郎!!
「んぐぅ…っ!!はぁ…ぁあ…ナナシっ…ぁあ!!」
「っ!!し、ろう………獅郎!!」
やってしまったのか…自分に勝てなかったのか。
獅郎を傷つけてしまったのか?
目の前には血を流す獅郎。
小さく唸りながらしゃがんでいる。
「わ、私は……なんて、こと…獅郎…獅郎!!」
「へーきだ馬鹿。なんつーか…アレだ………あれ?俺ってMなのか?」
ケロっとしている獅郎。
なにか独り言をブツブツ呟いている。
ポカーンとする私はおいてけぼりだ。
「獅郎…大、丈夫なのか?」
「痛くは、ねぇーが……痛くはな。なんつーか………」
「ほぇ?」
頬を若干染める獅郎。
そして私はピンと来る。
昔に聞いた話だ。
吸血鬼に牙を立てられたものは吸血の際痛みを感じず快楽を感じるのだと。
もしかしたら獅郎も…?
「はぁ…年だったからか?ご無沙汰だったからか?」
「獅郎………」
「っナナシ!!」
「血を吸って悪かった。主に歯を立てるなんて…」
「いや、痛くなかったからいいけどよ!」
「快楽を感じたのか?」
「うっ!?あ、あぁ…そーだよ!どーしてくれんだ!!責任とれよ!!」
半ばキレながら言われた。
私が悪いのだが若干イラっとしたのは気のせいか?
コートの下半身を指差す獅郎。
目を落とせばまぁ、ご立派!
……いやいやいや…。
「なぁ…ナナシ」
「っひ!」
低く唸る用な艶のある声。
「し、獅郎…まって…」
「待てねー」
「んむぅ…んは…ぁあ!?」
獅郎の荒い息づかい。
もうダメだ。
こうなったら獅郎に堕ちるしかないんだ。
end