憂いが混ざる空の果て
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「柔造さん!名無しさんを……」
「わかった」
名無しさんを抱き上げて柔造さんに託す。
一度ゆっくりできる場所まで運んでもらおう。
僕は…
「っ!!どこだ!!藤堂!」
「ハハハ…だから不死鳥再生能力をナメてはいけないと言っただろう。…やはり今の君たちに私を殺すことはできないね。能力もだいたい掴めたし…そろそろ退散するかな」
「……!はぐ…っ」
何が退散するだ。
藤堂の一部が柔造さんの首を絞める。倒れこんだ柔造さんの上に気絶した名無しさんも倒れる。
「ただ退散する前に…奥村君、名無し君に興味がある」
「名無しさん!!っ化け物め!!」
藤堂が名無しさんを抱き上げる。
銃を撃ち応戦するも流れ弾が名無しさんにあたるんじゃないか。
藤堂の言葉に耳を傾けている時点で銃の命中率は下がってる。
「僕は化け物が嫌いだか…ククク。青臭い自己否定だ。その考え方には限界がある。悪魔落ちへの第一歩だな」
後ろに回った藤堂の頭を撃ち抜く。
今はこいつの言ってることに翻弄されていてはダメだ。
彼はそう、悪魔だから。
僕は祓魔師の端くれだ。
基本を忘れるな。
そんなんじゃ名無しさんも柔造さんも守れやしない。
「君のお兄さんだって悪魔なのに、あぁ名無し君も悪魔落ちしそうなのに…君は悪魔を否定するのかい?名無し君を否定するのかい?」
「っな!?彼女になにをした!!」
「なにもしていないさ。ただ、話してたら気絶したんだよ。名無し君は実に逸材だ。弱い自分を受け入れているからね。いったいどんな悪魔を身に宿すのかな?」
肩にかついだ名無しさんの顔を僕に向ける。
その顔は青白くって死んだようだった。
名無しさんが悪魔落ち?
一体なんで。
藤堂は名無しさんになにを言ったんだ。
「ガッ」
「いいじゃない悪魔。君にもその要因があるだろう。ホラもう一度見せてご覧」
「ぐ…んぐっ…」
僕は冷静だ。
お前とは違う。
名無しさんも、簡単には落ちたりしない。名無しさんは強いから。
ただの戯言だ。
「…へぇ悪魔は断固拒絶というわけか」
僕の首を絞めていた藤堂が後方へ錫杖と共に飛んでいく。
柔造さんに感謝しつつ僕は銃に弾を込め藤堂の顔面に弾を打ち込む。
左手できちんと名無しさんを抱き締めながら。
名無しさんをもう一度柔造さんに預ける。
「最後に聞いてやるクソが。名無しさんになにをした。そしてお前は誰で何が目的だ」
「いいね実にいい表情だ。悪魔の顔だそれが君の本性だよ。名無しくんにはただ魂の話をしただけだ、けど私の目的は教えられないな」
「死ね」
ドカ
ドカ
ドカ
ドカ
今なにを考えてるんだ。
ただ引き金を引いて撃ち込む。
僕は、冷静だ…っ
ドカッ…
「おく、村…先生…っ落ち着いて…」
「ハァー……ハァーッ…」
背中に感じた暖かさ。
僕は無我夢中でなにをしていた。
腹に回る手を左手でギュッと握る。確かに暖かくて、だんだんと心が落ち着いていく。
「…おい、二人とも大丈夫か?」
「っは、私は大丈夫です」
「僕も大丈夫です。それより皆さん立てますか?」
今は避難が最優先だ。
名無しさんの体も心配だ。
「やつはすぐ復活する。捕獲は諦めましょう。全力でにげるんです」
「本陣はあの焔の真ん中や」
「急ぎましょう。名無しさん走れますか?」
「はい」
今は考えるな。
嫌な方向へ流されていく感情。
左手に感じる温もりを頼りに僕は僕を保つのが精一杯。
だから名無しさんしばらく手を握っててください。
僕を僕に繋ぎ止めるために。
end
シリアス雪男視点