憂いが混ざる空の果て
□50
1ページ/1ページ
夜、私は布団の中でずっと考えていた。
私が今ここに存在している理由。
「なんでだろう…」
前の世界での私は酷く弱かった。逃げてばかりで最終的には世界から逃げるように私を殺した。
なのに、なんで私みたいなちっぽけな人間が選ばれてこちらの世界に来たのだろう。
お母さんが願った。
だから来れたのか?
そんな不可思議で世の理に背くようなことしてもいいのか?
「もう一度生きても、いいのかな?…」
そう、一番はこれ。
死んだ人間が、私が。
生きていてもいいのか?
それを考えれば考えるほど胸が苦しくなる。
「泣きそ……っ」
このままじゃ泣いてしまう。
頭冷やしにいこう。
私は布団からでて飲み物をかいに廊下を歩く。
こんなときはオロ☆ミンCだ。私あれ大好きなんだよ。
「あ、奥村先生…」
「名無しさん?まだ起きてたんですか?」
「寝付けなかったんで」
「……泣きました?」
「へぇ!?あ、アクビだよアクビ!!」
広間のようなところで一人くつろぐ奥村先生。
こういう時人に会いたくないものだな。特にこう勘のいい人にはね。
「目尻赤いですよ」
「……泣き、ましたか、ね」
「藤堂……ですか」
「っ…」
その名前を聞いただけでも鳥羽だがたつ。
あの目を思い出すと何故か過去の映像が流れるのだ。
それに藤堂に殴られて気絶してから私の体が変なのだ。
胸の辺りがスースーする。
大事な何かが抜け落ちた感覚だ。
「名無しさんに…聞きたいんです、藤堂に何を言われたんですか?」
「わ、私は………っ」
「あっ、すいません。嫌でしたよね。もう寝ましょうか?」
「っ…ち、が………いて…」
「名無しさん?一旦座りましょう」
私をあやしながら椅子に誘導してくれる奥村先生。
その優しさが今の私にはなんだか辛いんです。
「わた、し。今ここで………っい、きていて…いい人間じゃないの……っ」
「名無しさんが?」
「もう、どうしたら、いっの…わか、んないよぉ…」
強くなるって決めたのに。
神父さんと約束したのに。
こんなにも受け入れがたいなんて思わなかった。
真実を話したら皆皆いなくなってしまうのではないか?
アマイモンさんにも嫌われてしまうのではないか?
そうなったら自分はまた自分を殺めてしまうのではないか。
全部をわかった私でさえ怖いのに、皆が怖がらないわけがない。
「泣かないでください。藤堂に何を言われたのかはわかりませんがあなたは、名無しさんは今ここにいるんです。存在しているんです。それを、否定するなんて悲しいこと言わないでください、名無しさん」
「せ、んせ…」
「名無しさんは酷く脆いです。昔の僕みたいに」
「……っ?」
「……一緒に強くなりませんか?」
奥村先生は私にそっと右手を差し出した。
その顔は本当に優しい笑みを浮かべていて。
「一緒に?」
「はい。それになにかあれば僕が名無しさんを守ります。だから一人で泣かないでください。名無しさん泣くと名無しさんがいなくなるんじゃないかって不安なんです」
「うっ…」
「だから、泣き止んでください」
「せんせっ!!」
急に視界が真っ暗になる。
後頭部にある大きなて、腰に回る腕。
抱き締められているんだと気づくともう涙腺は崩壊。
ずっと奥村先生の腕の中で泣いていた。
「……すいま、せん」
「いえ。気が晴れたならそれでいいんですよ!」
「奥村先生…ありがとうございます」
「雪男です」
「へっ?」
「僕のことは雪男でいいです。名無しさんも気が休まる場所が多い方がいいだろ?だから僕も敬語なくして名無しって呼ばせてもらうよ」
「雪男……?」
「よく、できました」
頭を撫でる手つきはまるで壊れ物を触るよう。
この感情を僕は知ってる。
恋って言うんでしょう?
end
ライバル出現か!?