憂いが混ざる空の果て

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昨日の夜一睡もできなかった。
翌朝になったら塾生の皆が京都観光しよう!って襖を開けられた。
だけど私はそれをやんわり断った。


こんな気持ちのまま観光したって絶対楽しめない。






そう、だから断ったのに。





「あ、これ美味しいとがいどぶっくに書いてありました」


「なんでやねん!!」


「つっこみですか?いきなりですね」



なんでアマイモンさんと観光してんだよ!!

成り行きさ。京都観光いきましょう、いかなきゃ刻みますって脅されたから渋々来ちゃったんだよ。


「はぁー…」


「名無し?」


「あ、すいません、どうしました?」


「……楽しくないですか?」



あぁ、私は馬鹿だ。

大好きなアマイモンさんにそんなかおさせてしまうなんて。

皆気を使ってくれてたんだから気づけよ、私の馬鹿。



「た、楽しいですよ?ただ、気持ちが整理できないっていうか……なんというか」


「わかりました」


「ほぇ?」


「名無しの気持ちの整理がしやすいようボクが手伝います」


「え?」


「だから話してください」



両手で私の頬を挟む手。
上を向かされてアマイモンさんと視線がぶつかる。

……町中なんですがね。



「わ、私の事嫌いになりませんか?」


「大丈夫です。元から嫌いです」

「酷っ!?」


「虚無界ジョークですよ。わかってください」


「わ、わかるわけないじゃないですか!!」


「……安心してください。何があっても名無しを嫌いになりませんから」


「あっ…アマイモン…さ、ん」



なんでそうやって私を虜にしてくんですか?
もういろいろ余裕なくて頭がパンクしそうなんですよ。


あのあと私達は場所を移動してベンチの上。

アマイモンさんは八つ橋片手に私の事を見ていた。



「私がこちらの世界の人間じゃないの知ってますよね」


「はい」


「私がここにきたのは、前の世界で私が罪深い事をしてそれを勉強するためなんです」


「知ってます」


「わ、私は前の世界で私を殺しました」


「……」


「ま、周りの人達から逃げて逃げて、一人になっては泣いていました。辛くて辛くてどうしようもなくなって…自分を殺しました」


「……名無し」



アマイモンさんの大きな手が私の涙をぬぐう。

何て優しいんだろう。

溺れてしまいそうになる。



「だ、から…私は命の大切さを、尊さを、勉強しにきました。だけど私は……私なんかが生きていてもいいのかわかりませんっ…。わたしが、わた、しを殺したのに…」


「名無しっ」


「アマイ、モンさぁ…ん?」


「ボクは過去の名無しなんて知りません。何をしてても構いません。けど、弱い名無しは嫌いです」


「……っ…」


「ここにいるのは"こっちの世界"の人です。昔の頃と違ってこっちの住人なんですよ?なのになんで生きてちゃダメなんですか?」


「だって…私は………っ」


「こっちで死ななければいいじゃないですか。それに名無しは殺したって死ななそうですし…。死にそうならボクが助けてあげます」



私はやっぱしアマイモンさんが好き。

彼じゃないと私の欲しい言葉を塞げない。
いつだって私を満たしてくれる。


「私は…生きていても…。いいの…?」


「いいにきまってます。名無しは自分の存在を否定しないで下さい。名無しが死を意識しないようにボクが名無しを守ります」


「アマイモンさんっアマイモンさん!!」



必死にアマイモンさんのジャケットにしがみついた。
わんわん子供みたいに泣く私を黙って抱き締めてくれる。


あなたのおかげで心が軽くなりました。




「名無し泣き止んでくれませんか?かなり見られてますよ?」

「えぇ!?」


「泣き止まないと八つ橋あげません」


「い、いるぅ!!ください!!」


「……やっぱり名無しは笑っていた方がいいと思います」


「へ?なんて…」


「うるさいです」



なんか頭をはたかれたけどいつもみたいに痛くなかった。

うん。

気分も晴れたし京都を楽しもう。


「アマイモンさん!!京都満喫しましょ!!」


「八つ橋で元気になったんですか?八つ橋偉大ですね」



いーや。
あなたのおかげです。

なんて気恥ずかしくて言えないけど、

これは伝えたいんです。



「私を認めてくれて、ありがとうございます」



「はい」














end

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