憂いが混ざる空の果て

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「ははぁ…広い、これが海なんですね」


「アマイモンさんなんでポンチョきてついてきてるんですか」


「海が見たくてつい。まぁ、しばらくしたら帰りますよ?兄上に怒られます」


「大丈夫なんですか?」


「名無しはボクといるのが嫌なんですか?」


「い、……いやなわけ、ないです…」



なんて卑怯な聞き方なんだ。
アマイモンさんよ!


はい、皆さん!!
私達は今海に来ています。京都滞在最終日の今日。任務は熱海のビーチに現れる大王烏賊の討伐。

大王烏賊が現れるまでの任務内容は特になし。
だから皆海をバカンス中なんです。


プロロロ…



「あ、兄上から電話だ」


「でないんですか?」


「いいです。名無しちょっと」


「なんですか?」



からだが見えなくなるポンチョを着てるからアマイモンさんが見えない。

見えないけど何やら布と布が擦れる音がする。



「名無し、名無しはこの任務が終わるまでこれをきててください」


「は、え?」



手を差し出したら手の上に何かがのる。

アマイモンさんが手を離したら途端目に見えるようになったそれは。



「アマイモンさんのワイシャツ?」



そう、手に乗ったのはアマイモンさんがいつも着てるワイシャツ。海ではとっても目立つストライプ柄だ。

きてみたがすんごいブカブカだ。


「ブカブカだ…てか、アマイモンさんいまどんな格好してるんですか?気になりすぎてヤバイ」


「ワイシャツをきてないだけです。ベストとネクタイとジャケットだけです」


「いろんなアウトな格好してるんですね」



にしてもブカブカ。

仕方ないから途中を括って纏めた。若干ブカブカだがまだましだ。
救いだったのが私の水着が黒だったことかな。
悪目立ちしない色で心底よかった。

まぁワイシャツ目立ってるし別にいいけど。



「(あまり名無しの体を見せたくなかったんですがこれは、これで……)名無し、ボクは行きますけど気を付けてください。あと、オクムラリンと手を繋いだら殺します」


「私をか!?燐君をか!?」


「どちらもです」


「まだ、死にたくないんで手はつなぎませんよ!では、また会いましょうアマイモンさん!!」


「はい。兄上の部屋で待ってます」

「さようなら!」



微かにかおる甘い匂いがなくなる。アマイモンさんいっちゃったかな?

それにしても海は綺麗だ。
音を聴いてるだけでも癒される。
岩場に座り目を瞑りながら波の音を聞いているとジャリッと砂を踏む音が聞こえた。



「ん…?」


「気づいちゃった?」


「雪男君?」


「うん。雪男だよ。隣いい?」


「いいよ!」



足音の正体は雪男君だった。
なにやら私を脅かそうとしていたらしい。



「名無しは遊びにいかないの?」


「雪男君こそ!私はおばさんだから行かないの」


「僕は任務の引率者だからね。遊ばないよ?……おばさん?」


「そう雪男君よりも4歳上だからね。雪男君らが羨ましいよ」


「19歳…年上だったんだ。でもおばさんって年じゃないよ!」


「雪男君優しぃ!」



他愛もない話をしていると雪男君がいきなり真面目な顔をした。
なんだろう?そう思って首をかしげたら肩を掴まれた。



「名無し……藤堂の時、僕は君の中に2人君を見た。勘違いだったらゴメン。あのもう1人も名無しなの…」


「あ…わ、私が2人…」



なんでかな?私は私の過去を知ることができたからもう1人の私を知ってる。

けど、私の中に2人私がいる。どういうことなんだろうか…。



「わ、わからないけど多分…」


ウウウウウウ―…


「……名無し帰ったら聞かせて」


「う、うん…。てか、なにこれ?」


「大王烏賊が近辺海域に入ったんだよ。僕らも行こう」


「わ、わかった!」



手を引っ張る雪男君。


そういえば藤堂も"2つ"のうち"1つ"をくれって言ってた気がする。

深い意味はわからない。
だけど雪男君も知ってるってことは私の中に2人…2つ存在するんだろうな。


今の私と、弱い私が…。













end

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